2023年7月1日土曜日

脳男 (2013)

首藤瓜於による小説が原作で、映画では登場人物の設定などに変更が加えられています。監督は瀧本智行で、日活創立100周年記念として制作されました。


猟奇的な殺人と無差別爆弾事件が連続で発生し、精神科医の鶯谷真梨子(松雪泰子)も乗り損ねたバスが発車直後に爆発するのを目撃します。被害者はいずれも舌を切り取られ、体に爆弾をセットされていました。茶屋刑事(江口洋介)は爆弾の残骸から特殊な工具が使われていたことを突き止め、購入者の中からアジトと思われる倉庫に向かいました。

すると、中から言い争うような声が聞こえ、直後に爆発が起こります。茶屋が踏み込むと、鈴木一郎と名乗る男(生田斗真)が一人だけ残っていて、一味の一人として拘束します。茶屋はあまりに無表情で人間らしい感情を表に出さない男に驚き、真梨子に男の精神鑑定を依頼します。


アジトを爆破して逃亡した真の事件の犯人は、サイコパスの緑川紀子(二階堂ふみ)と彼女を敬愛する水沢ゆりあ(太田莉菜)で、二人は男の正体を探るため真梨子の周囲に盗聴器を仕掛けます。

真梨子は男が過去に症例報告された患者と似ているため、報告者である藍沢(石橋蓮司)に会いに行きます。藍沢は以前運営していた自閉症児童施設にいた入陶大威(いりすたけきみ)の話をします。大威は両親をひき逃げで失い入所しましたが、自発的な行動をまったくせず、しかし、一度見た物や読んだ事は完璧に記憶する特殊なこどもでした。富豪の祖父、 倫行はあらゆる殺人に関する知識を教え込み、悪い人間を殺すように教育したのでした。

茶屋は鈴木一郎が入陶大威であることを確信し、犯人を殺すためにアジトにいたものと確信します。そして病院から警察署へ移送する途中で、緑川と水沢の襲撃され、混乱の中で水沢は射殺されたものの、緑川と大威は逃亡してしまいます。

1週間後、鈴木一郎を呼び出し殺すために、緑川は真梨子を人質に病院に立てこもります。緑川は、エアシューターで病院のいたるところに爆弾を繰り爆発させるなか、ついに鈴木一郎が病院に姿を現すのでした。

感情が無い人間はおそらく存在しないと思いますし、鈴木一郎の場合も後天的に感覚的に心を閉ざしてしまったものだと思います。であるならば、どこかで何かのきっかけがあれば、再度心を開く、つまり感情を呼び戻すことは可能なのかもしれません。実際、映画でも真梨子は何とかそうなるように努力するわけです。

原作に無い設定として、真梨子は以前弟が猟奇殺人の犠牲になっていて、その犯人のカウンセリングを直接行うという厳しい背景があります。だからこそ、鈴木一郎を何とか人間として立ち直らせるために深入りする状況に説得力が生じているように思います。

生田斗真は、痛みを感じない感情を見せることが無い「脳男」を演じるにあたって、かなりハードなトレーニングをこなし、監督らとも本能にすら左右されない人間についてディスカッションを繰り返したそうです。その成果が合ってか、脳男が実在するならそうだろうと思わせる迫真のキャラクターを作り上げたように思います。

ある意味同類ともいえる緑川役の二階堂ふみも、ダイエットして眉を剃り凶暴なサイコキラーを熱演しています。松雪泰子、江口洋介も狂気に翻弄される様子は、落ち着いてみていられます。

とにかく登場人物の一人一人が、強烈な個性を放つ作品。ものすごい負のエネルギーのせいで、見終わってもハッピーな気分にはなれませんが、ある種のカタルシスを感じる不思議な作品です。