伊坂幸太郎のサスペンス小説が原作。監督は瀧本智行、主演は生田斗真というのは「脳男(2013)」のコンビ。タイトルのグラスホッパーはいわゆるバッタのことで、高密度で生息すると群生相と呼ばれるより黒っぽく飛翔能力が高い集団として成長するらしい。
表向きは健康食品会社の社長ですが、違法薬物売買で裏社会で一目置かれる寺原(石橋蓮司)は、息子に命じて薬物中毒者が運転する車をハロウィーンで賑わう渋谷スクランブル交差点に突入させ、多くの一般人を死に至らしめます。あえて取り締まりを強化させ、同業者を窮地に追い込むことが目的でした。
こどもをかばって犠牲者となった百合子(波瑠)のフィアンセ、中学の教師で虫も殺せない鈴木は、「犯人は別にいる。寺原を調べろ」という密告を受け、教師を辞して寺原の会社に入社するのです。街頭で商品の勧誘をする鈴木は、かつての教え子というギャルから声を掛けられ会社に案内します。寺原の部下で冷酷な比与子は、彼女を拉致して薬漬けにするというのでした。
女を寺原の息子に引き渡すためスクランブル交差点で待っていると、鈴木と比与子の目の前で、息子は車の通っている交差点内に押しだされ殺されてしまうのでした。鈴木は「押し屋」と呼ばれる殺し屋(吉岡秀隆)を追跡し、妻(麻生久美子)と二人のこどもがいる普通の家庭の父親であることに驚き、寺原に狙われるから逃げるように話してしまいました。
一方、寺原からの依頼で、多くの邪魔者を催眠能力によって自殺させてきた鯨(浅野忠信)でしたが、いろいろ知り過ぎたことで寺原はナイフの達人である蝉(山田涼介)に殺しを依頼してきます。鯨は死に追いやった人々の幻に付きまとわれ、蝉も生きていることの実感を感じることができないでいました。
寺原のもとに鈴木は復讐のために押し屋を雇ったという密告があり、比与子は鈴木を拘束します。息子の仇を取るため、ついに寺原は堅牢な邸宅から比与子のアジトにやってくるのです。そこへ、寺原と決着をつけるために鯨、その鯨を殺すため蝉も集まってくるのでした。
こうやってストリーをなぞってみると、比較的わかりやすい感じですが、映画の中では、鈴木・鯨・蝉・押し屋のエピソードが入れ代わり立ち代わり出てくるので、やや複雑でわかりにくい構成になっています。
鈴木の復讐をたきつける表に出てこない何かがいることはわかりますが、そこにストーリーを集中させてもよかった。鯨と蝉は、基本的にそれとは別建ての話なので、最後まで鈴木と交わることはありません。そういう意味では、ばらばらの話が最後に一本にまとまるという展開には無理やり感は否めません。
また、ほぼ謎のまま本筋が終了した後に、エピローグとして1年後に裏で動いていたある人物に全部説明させてしまうのは、あまりに安易な感じがします。伏線をすべて回収する必要はないと思っていますが、残された謎を推理できる材料は本編に残してほしいところ。
今回の生田斗真は気弱で正義感が強い「いい人」を演じていますが、急にスーパーマンになれるわけもなく、どちらかというと狂言回しという役どころ。むしろ、二人の殺し屋のそれぞれの葛藤の方が、サスペンス+人間ドラマとしての奥行きがある。
ただし、鯨の催眠術のような超能力はどうもわかりにくいし、安直な感じがします。蝉は比較的キャラクターにインパクトがありますが、これは「アイドル」であることを捨てた山田涼介の怪演の賜物。ある意味、山田の演技を見るだけでも元が取れるくらいの感じです。