2023年7月3日月曜日

来る (2018)

「告白」の中島哲也が監督したホラー映画・・・ということなんですが、原作は澤村伊智の小説で、原作未読の自分としてはかなり混乱してしまいました。

もっとも、原作を知るひとにとっても、(否定的ではなく)何だこれはという感想らしく、凡作・駄作とは言えない凄まじいエネルギーが詰まった怪作という感じ。

出演者がすごい。最初の主役である田原秀樹が妻夫木聡、その妻である香奈が黒木華、そして秀樹の友人、津田大吾は青木崇高。中盤になると主役はオカルト・ライターの野崎和浩が岡田准一、霊媒師、比嘉真琴に小松菜奈、同じく逢坂セツ子に柴田理恵。そしてオオトリの主役が真琴の姉で最強の霊媒師、比嘉琴子となり、演じるのは松たか子で、全体を通して鍵となる田原夫妻のこども知紗は子役の志田愛珠です。

あらすじが超難解で、現実・回想・幻想が入り乱れてとても簡単に整理できそうもない。原作が三部構成で、第1章「訪問者」は秀樹、第2章「所有者」は香奈、そして第3章「部外者」は野崎の視点でそれぞれ一人称で語られる構成だそうで、映画もある程度準拠しているようです。

序盤は、秀樹が実家にフィアンセの香奈を連れていくところから始まります。実家のある田舎では、得体のしれない怪奇現象があり、こどもが行方不明になる事件が起こっていました。秀樹もこどもの時に、親しい女の子が姿を消したことを経験していました。そして、その後二人の新婚生活、そして知紗が生まれて秀樹が「イクメンパパ」となって幸せな日常が描かれます。

しかし、秀樹の周りに少しずつ怪奇現象が起こり始め、津田の知り合いの野崎に相談。野崎はセツ子を紹介しますが、「あれ」の襲撃によりセツ子は右腕を失います。続いて、野崎はパンク系ファッションの霊能力者、真琴を連れてきますが、彼女の手に負えるようなものではなく、姉の琴子からの電話の指示で秀樹は部屋中に対策を施しますが、「あれ」の襲撃によって命を落としました。

中盤になると、ひとり親になった香奈がメイン。香奈はイクメン気取りの秀樹に愛想をつかし、何かと知紗にイライラをぶつけるようになっていましたので、秀樹が死んだことは悲しくはなかったのです。知紗を心配して訪れた真琴に、その子はあなたにあげるといい津田との逢瀬を楽しむようになっていました。

野崎もその後を心配しますが、香奈にはうまくあしらわれてしまう。野崎は過去に恋人に堕胎をさせたことが、心に重くのしかかっていました。そして、真琴も知紗も「あれ」に連れ去られてしまい、何もかもが負の回転のなかで、香奈も「あれ」の襲撃により絶命します。

そしていよいよ終盤です。あまりに強大で邪悪な「あれ」と対決するため、琴子は全国から多くの霊媒師を集めますが、集結する前に「あれ」に襲われてしまう者もいました。琴子は秀樹の住んでいたマンションの前に除霊儀式のための祭殿を作り、「あれ」を呼び込んだのちに一気に勝負かけるのでした。

原作では「あれ」については「ぼぎわん」と呼ばれ、ある程度の説明はされているのですが、映画ではほとんど触れていません。2時間ちょっとの映画の中におさめるために、意図的に省いて、原作者の狙いである襲って来る物の怖さより、襲われる側の恐怖に注力したものと思われます。

また、秀樹、香奈、知紗、野崎らを中心に、襲わける側の二面性を浮き上がらせているのも特徴的。ある時は正義のように見えても、別の角度から見ると悪であったりすることで、人間そのものの「怖さ」も見えてきます。しかも、それぞれの登場人物の背景を描き切らないために、恐怖が増大し、また感情移入もしにくくしている。

そのため、芸術性において高評価する一方で、娯楽映画なのにわけがわからないと映画の評価は二分されてしまいます。自分は中間。あと少しの納得感が見終わった時に欲しい気がしました。