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2023年7月4日火曜日

散り椿 (2018)

岡田准一の活躍は目を見張るものがあります。2018年は2本の映画が公開されましたが、一つはホラーの「来る」で、もう一つが人情時代劇の本作です。

原作は歴史小説作家の葉室麟で、この映画の完成直後に病没しています。監督は木村大作。黒澤組の撮影監督として活躍し、2009年に「劒岳 点の記」で監督デヴュー。これが監督としては3作目で、当然撮影も担当しています。

京で密かに暮らしている瓜生新兵衛(岡田准一)と篠(麻生久美子)の夫婦でしたが、篠が病気のために亡くなりました。篠は亡くなる前に新兵衛に、故郷の散り椿をもう一度私の代わりに見てほしいと言い遺しました。

18年前、扇野藩では新兵衛、榊原采女(西島秀俊)、篠の兄である坂下源之進、篠原三右衛門(緒形直人)が若き四天王と呼ばれていました。新兵衛は、采女の養父である勘定方の榊原平蔵が、豪商の田中屋惣兵衛(石橋蓮司)から賄賂を貰っていることを上申したために、藩から逐電せざるを得なくなりました。その後、平蔵が何者かに斬られ、源之進は城代家老の石田玄蕃(奥田英二)の命により事件をおさめるために切腹したのです。

新兵衛は坂下家を訪れ、篠の妹の里見(黒木華)、弟の藤吾(池松壮亮)に篠が亡くなったことを報告します。そこへ田中屋から用心棒の依頼が舞い込む。実は城代家老が、平蔵を通して賄賂を受け取り田中屋へ事業の独占を許していたのです。田中屋は、もしも裏切られたときのために、城代家老からそのことを約束したことが書かれている起請文を受け取っていたのです。

若君が新藩主としてお国入りが近づき、悪事が露見することを怖れた城代家老は、田中屋から起請文を取り返そうとしているため、田中屋は身の危険を感じていたのでした。新兵衛は起請文を預かり、今では側用人として若君からの信頼も篤い采女に渡します。

篠の遺言はもう一つあって、「采女を守ってあげてほしい」というものでした。新兵衛は、かつて篠と采女の間に縁談があったことから、采女に対して嫉妬心をどこかに持っていましたが、采女はきっぱりと断られたことを新兵衛に語り、「後を追って死ぬ気だった新兵衛を生かすため」に口にしたことだと諭すのです。若君が戻り、若君暗殺にも失敗した城代家老は、一刻の猶予もなくなり、ついに起請文を取り返すために、采女らの抹殺を決意するのでした。

基本的には勧善懲悪的なストーリーで、お家騒動としては目新しさはありませんが、そこに妻の遺言で時を経て関わらざるを得なくなった武士を登場させることで、物語の奥行きが深まりました。ただし、登場人物の相関関係が複雑すぎて、整理しきれていない感があります。

岡田准一の殺陣さばきは当然のように決まっています。斬った後に血が噴き出したり、刀にも血が付いているところなどはかなり現実的。昔ながらのチャンバラよりも、巧者の戦闘を強く意識した立ち振る舞いですが、それ以上に、優れた台詞回しの俳優としての素晴らしさがあふれているように思います。

さてさて、問題は木村大作。確かに全編富山でのロケによる映像美は実に素晴らしい。黒澤明が、うまい撮影ができないと「大作を呼べ」と言ったというのも嘘ではありません。ただ、演出が「さぁ、感動しろ」と言わんばかりの古さを感じるというと申し訳ないのですが、ここは泣く場面とかがわかりすぎる。

音楽の使い方も一辺倒で、加古隆の重苦しく切ないメインテーマも、あまりにも頻回に出てくるのがつまらない。しかも、音量が大きめで、せっかくの台詞が聞き取りづらい。悪い映画ではないのですが、そのあたりがちょっと残念。ちなみに斬られる平蔵役は木村大作本人がカメオ出演しています。