2023年7月15日土曜日

エヴェレスト 神々の山嶺 (2016)

山に見せられた登山家の名言として広く知られている「何故登るのか」という問いに対する答えで、「そこに山があるから」というのがあります。これはイギリスの登山家、ジョージ・マロリーの言葉。正確には「そこに(エヴェレストが)あるから」とのことですが、登山家の普遍的な心情を端的に表していることは間違いない。

エヴェレストの初登頂は1953年、イギリス人のエドモンド・ヒラリーによって成し遂げられますが、マロリーは1924年にエヴェレストに挑戦し消息を絶ちました。1999年に75年を経て遺体が発見されましたが、彼が登頂に成功したかはいまだに謎とされています。

さてこの映画は、夢枕獏による小説が原作で、マロリーが所持していたカメラを発端にしていますがフィクションです。監督は平山秀幸、脚本は加藤正人。ネパールでのロケ、特にエヴェレストでのシーンはかなり本格的で、山岳映画ファンには見応えのある作品です。

山岳写真家の深町誠(岡田准一)は、ネパールの首都カトマンズの道具屋でマロリーが所持していたカメラを発見します。それは死んだと思われていた孤高のクライマー、羽生丈二(阿部寛)から盗まれた物でした。日本に戻った深町は、羽生の足跡を調べ、かつて羽生を尊敬し一緒に登攀中に滑落死した岸文太郎(風間俊介)の妹、岸凉子(尾野真千子)を伴って再びネパールに向かいます。

そして、やっと探してあてたのは、死の寸前を助けてくれた現地のシェルパの息子として暮らす羽生でした。羽生は、成し遂げられなかったエヴェレスト南西壁冬期無酸素単独登頂に挑戦しようとしていました。深町は、彼の姿を写真に撮ろうと同行を願い出ます。

深町の何故登るのかという問いに、羽生は「ここに俺がいるから」と答え、ついてくるのは勝手だが、お互いに干渉はしないと言います。しかし、深町が落石で宙づりになると、危険を顧みずに助けてくれるのでした。羽生は、これで岸への借りはチャラだと言います。

さすがに深町には垂直に切り立つ南西壁を上ることはできず、遠方からシャッターを切るのが精一杯でした。しかし、天候が急変し、羽生の姿を見失います。そして羽生はキャンプに戻って来ることはありませんでした。

憔悴して日本に戻った深町は、羽生が山に登る本当の答えを知るために、もう一度エヴェレストに行くことにします。涼子も、そこまで命を賭ける価値があるのか自分の目で見て納得したいと同行することにしました。

そして、シェルパの案内で登山を開始した深町は、シェルパや涼子が天候の悪化のために下山するように無線で連絡するのを無視して登り続けるのです。強風と吹き付ける雪に阻まれ、深町は岩の裂け目に何とか避難するのですが、そこで彼が見つけたものは・・・

山の映画としては、迫力満点です。ただし、人間ドラマとしては、羽生がそこまで山に登る意味が描き切れているとは思えない。当然、写真家の深町が単独でエヴェレストに挑戦しようというのも無理があります。ましてや、ベースキャンプまでですが、普段登山をしていない涼子がついてくるのはさらに理解しにくい。

まぁ、エヴェレストという世界で最も神々に近い場所に憑りつかれた人々の物語としては、一定の評価はされてもいいように思います。ただ、やや無謀すぎる登山は、受け入れにくく、ほとんど岡田准一、阿部寛の頑張っている姿しかない映画です。

マロリーのカメラについては、きっかけに過ぎないので、あまり重きを置く必要はないと思いますが、最後にマロリーの謎みたいなところに一定の解釈を出しているのはサービスのし過ぎかなというところ。

少なくとも登山の好きな方、山岳映画が好きな方は見ておいて損はありません。