2024年8月15日木曜日

全開ガール (2011)

まだまだ「月9」と云えば、作る側も見る側もありがたがっていた頃のフジテレビの連続ドラマ。「岳-ガク- (2011)」、「君の膵臓をたべたい(2017)」、「四月になれば彼女は(2024)」などのヒット・メーカーである吉田智子のオリジナル脚本です。「のだめカンタービレ」シリーズ、「テルマエ・ロマエ」シリーズ、そして最新作「はたらく細胞(2024)」も期待される武内英樹監督がメインの演出を行っています。

主演の新垣結衣は、地上波連続ドラマ初主演。当時は関ジャニ∞で、俳優としても頭角を現していた錦戸亮が共演。「強い男と弱い女」という既成概念を逆転させ、子育て、イクメンといったいかにも21世紀らしい社会事情を反映させたラブ・コメで、「ムズキュン」という形容で話題になった新垣結衣の「逃げるは恥だが役に立つ(2016)」よりも、さらに上を行くむずむず感を味わえるドラマです。

主人公の鮎川若葉(新垣結衣)は、母を早くに無くし父の手一つで育てられ、極貧生活の中で必死に勉学に励みセレブになることを目標に弁護士資格を獲得しました。その輝かしき船出となる外資系法律事務所に就職が決まった途端に、事務所が日本撤退し失職。かわって鮫島桜川事務所に頼み込むと、条件付きで即日採用。その条件とは、所長の桜川昇子(薬師丸ひろ子)の5歳の娘、超生意気な日向(谷花音)のベビーシッターをすることでした。

保育園での日向の大の仲良しは山田笑太郎(高木星来)で、父親は居酒屋の料理人、山田草太(錦戸亮)です。草太は結婚したリリカ(浅見れいな)の連れ子で、リリカはダンサーになるためアッと言う間に草太と笑太郎を捨ててニューヨークに行ってしまい離婚しました。それでも、草太は笑太郎を本物の父親以上に育てようと日々努力していました。

のし上がって金と地位を得るためには、ベビーシッターでも一度引き受けた仕事は完璧にこなすと言い切る若葉と、他人に合わせてどんなことでも受け入れてしまう草太はこどもたちを介して次第に惹かれ合うのですが、若葉は自分の高い目標とはほど遠い草太を「だんご虫」と呼び徹底的に頭の中から排除しようとします。一方、草太も悪く言えば優柔不断で、他人の幸せのためならすぐ身を引いてしまうため、若葉への想いを態度にも口にも出せないのでした。

という、まさにむずむずキュンキュンする毎週のエピソードの連続。さすがに、何か事あるごとに、それぞれが相手をあきらめるしかないようなシーンを聞いたり見たりするのは、3か月間の放送期間を埋めるための引き延ばし的な部分はあると思うのですが、視聴者も毎週拍手したりため息をついたりして楽しむポイントは心得ています。

昇子の秘書で草太に積極的にアプローチする汐田そよ子(蓮佛美沙子)、資産家令息で事務所一の切れ者で、まさに若葉の目指す結婚相手に相応しい新堂響一(平山浩行)が恋のライバルとして登場します。草太のイクメン仲間として西野(鈴木亮平)、林(荒川良々)、鶏井(皆川猿時)ら、そしてこどもたちの通う保育園の園長(竹内力也)とその妹(皆藤愛子)が幕間を埋めています。

ラブ・コメですから、当然落としどころは最初から決まっているわけてすが、最終回のぎりぎりまで向きたいけど反対を向く二人がついに・・・という展開は唐突過ぎる感じは否めません。男性の育児の諸事情についても、いろいろ現実を詰め込んではいますが、あまりそこを掘り下げるというところまではいっていない。あくまでもコメディとしてのドタバタ的要素で終わっているのはもったいない。

少なくとも、よくある恋愛物の殻を破ろうとした内容であることは間違いありません。そういう意味では「月9」としては異色の出来かもしれませんが、結果として新垣結衣の魅力を引き出した作品という意味では評価できるように思います。