「逃げるは恥だが役に立つ」は、海野つなみのマンガが原作で、2016年にTBSのテレビ・ドラマとして放送され、主題歌による「恋ダンス」と共に大人気となったことは記憶に新しいところ。原作のエッセンスを損なうことなく練り上げた野木亜紀子の脚本により、見事に登場人物のキャラクターが際立ちました。それをテンポよく映像として定着させた土井裕泰、石井康晴の演出も冴えを見せていたと思います。
そして、2020年に主役の森山みくり(新垣結衣)と津崎平匡(星野源)の事実婚のその後を描くスペシャルドラマの計画が立ち上がりました。連続ドラマではラブコメな内容にも関わらず、「労働としての家事」、「主婦という職業の対価」、そして「変わってきた結婚観」などを掘り下げ社会派ドラマの側面をしっかりと描いたことが評価されました。新作では、「夫婦別姓」、「育休に対する批判的な見方」、「広がるイクメン」といった新たな問題点を掘り下げる内容。
ところが2020年初頭に始まったコロナ禍はエンターテインメントの世界にも重大な影響を及ぼしたわけで、多くのドラマが中断したり、短期で終了したりしたのはご存じの通り。ドラマ・スタッフは、この今を生きる我々が初めて経験するパンデミックに対して、委縮するのではなく、むしろ立ち向かって行こうという応援歌としてオリジナル・ストーリーを大幅に追加することで、渦中に作られたドラマとしての存在意義を高めることに成功したと思います。
後から振り返って物事を整理してまとめ上げることは簡単とは言いませんが、このスペシャルドラマの凄いと感じるところは、リアルタイムで進行中のコロナ禍のいろいろな影響を的確に拾い上げているところ。「ガンバレ人類!」というサブタイトルはジョークではなく、スタッフ・キャストからの本気のメッセージであったことが、ひしひしと伝わってきます。
もう過去の話というように忘れてしまったような風潮も見受けられますが、コロナ禍は完全に終息したわけではなく、あくまでも重症化するリスクが軽減しただけで、現在も感染者数は再び増加しているというニュースが伝わってきます。あの時、誰もがどれだけ苦しい思いをしたかを忘れないことは大切ですし、今あらためてこのドラマを見返してみることはとても意味があると感じました。