この作品は、原作は「鉄道員(ぽっぽや)」の浅田次郎の晩年の長編。地方大名が、さんざん好き勝手をして作った莫大な借金のため、隠し子にしていた四男にすべての責任を取らせて切腹させることで生き延びようとするという話。
それだけ聞くと何とも暗澹たる気持ちにさせる話なんですが、その四男が妙に頑張ることでコメディ要素をまき散らすという風変わりな作品です。監督は前田哲、脚本はドラマ「半沢直樹」の丑尾健太郎とドラマ「下町ロケット」の稲葉一広が共同で担当しています。
新潟の丹生山藩の名物「塩引き鮭」を作る名人である間垣作兵衛(小日向文世)と一人息子の小四郎(神木隆之介)は、慎ましくも幸せに暮らしていました。小四郎の母なつ(宮崎あおい)は、小四郎が小さいうちに病で亡くなっていました。実は、小四郎は藩主松平和泉守(佐藤浩市)がなつに産ませた庶子で、鮭役人だった作兵衛が面倒を見ていたのでした。
松平和泉守の長男は事故で家督相続直前に急死。次男(松山ケンイチ)はうつけ、三男(桜田通)は病弱だっため、急遽四男の小四郎が新たな藩主として藩を継ぐことになってしまいます。しかし、丹生山藩は商人の天元屋(キムラ緑子)に利益をむさぼりとられ、莫大な借金のためお取り潰しの危機に面していたのです。
和泉守は小四郎に「大名倒産」を宣言させ、藩を幕府直轄にすれば借金返済は幕府に押し付けられるというのです。しかし、その責任により小四郎は切腹する運命にあるのでした。小四郎は、幼馴馴染の賢くて気丈なさよ(杉咲花)の協力も得て、藩の財政を立て直す作戦を開始します。
大名らしくない小四郎の振る舞いに最初はあきれていた家臣たちも、彼の真っすぐで真剣な取り組みに少しずつ感化され、協力して藩の立て直しのために動き出すのでした。
時代劇は昔からありますが、日本の場合は戦国時代の武将たちの立身出世物語か、江戸時代の金太郎飴のような勧善懲悪物が大多数。ただ、エンターテインメントの波は時代劇にも押し寄せ、21世紀になって「古臭くない」アクションを売りにした作品や、現代風の感覚を取り入れたドラマ・コメディなども増えてきました。
この映画は、基本的に荒唐無稽な話ではありますし、そもそも塩引き鮭作りの家に育った小四郎が、いきなり大名ができるはずがない。そこんとこはある程度了解しておくしかないのですが、さすがに原作が良さのせいもあってか、それなりに最後まで破綻することなく楽しめる。
コメディ色は、直接的なギャグはありませんが、小四郎の藩主らしからぬ行動が自然と笑いを誘うところが嫌味が無くて良い。神神木隆之介や杉咲花の演技力の良さが光っていると思います。また、大挙して登場する大御所俳優たちも、実に「らしからぬ」暴れっぷりを見せてくれて痛快な作品になっています。