2008年3月3日月曜日

頑固な患者さん

今日は一人のお年寄りの話。

今日はどうされたんですか?
腰から背中が痛いんです。ときどき足が歩いていると硬くなる。休むと歩けます。
レントゲンでも典型的な脊柱管狭窄症ですね。今までには治療したことは無いのですか?
A大学病院に行きましたけど、同じ病名を言われて薬を90日分だされました。飲んでも効果はありませんでした。今は親戚の勧めで、新宿にあるクリニックに言っています。自分よりも年を取った先生が、注射で軟骨ができて治ると言っています。
それはありえません。現在の医学では注射で軟骨を形成させることは不可能です。その先生は整形外科専門医ですが。
違うと思います。病名も違うと言っています。でも大学では相手にしてくれませんので、どうしようかと思っています。
どうしてうちにお出でになったのですか。
他の先生の意見を聞きたくて来ました。
だったら、あなたの場合は典型的なので、あまり他の話をすることもないですよ。現在は手術が必要な状態ではないので、大学病院に通うようなものではありません。内服が効果が無いのなら、頻繁に通えるなら物理療法で電気とか温熱を中心にしますし、あまり来れないようなら2週間に一度点滴をします。
他の先生にも聞いてみたいと思います。
それはかまいませんが、整形外科専門医なら、それほど悩む状態ではないので、何人に聞いてもあまり違う話はでませんよ。
じゃ、考えてみます。

この患者さんの場合には問題がいくつかあるようです。まず、大学病院の対応。大学病院は高度な医療を提供する場です。たとえば大学病院へかぜの患者さんが集中したら、大学でしか治療できないひとを治療する余裕が無くなってしまいます。

ですから、状態がはっきりしたのなら患者さんを近くの一般病院か、開業医に紹介すべきでしょう。90日処方というのは、いくらなんでも長すぎです。大学も経営が成り立たなくては存在できませんから、このような中途半端なことが起こってしまうのです。このお年寄りは、大学が自分を相手にしてくれないということから医療不信に陥っているようでした。

そしてもう一つは新宿のクリニック。かなりお年寄りの開業医の先生のようですが、自分の信念に基づいているのでしょうが、現在の医学的常識からかけはなれていることに気がついていないようです。それは大変に危険なことで、医療から学問を抜いてしまうと、最悪の場合ヒポクラテス以前の「祈祷師」と同じになってしまいます。

そして最後に患者さん自身。自分が納得できるまで、ジプシーのようにあちこちを転々と渡り歩いているのです。下手をすると正しいとか正しくないとかという議論よりも、自分に都合のい良い話が聞けるまで続くかもしれません。そうなる原因を作ったのは医者かもしれませんが、早くじっくりと治療をすることが大事であることに気がついてもらいたいと思います。

結局、このお年寄りが期待していたような説明は出来なかったかもしれません。むしろ、面白くない厳しい話をしてしまいました。患者さんが再診してくれるかどうかは、自分が患者さんを納得させられたかにかかっているようです。再診してくれなければ、自分の対応もま
かったということです。