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2008年3月30日日曜日

今の研修医

日本の医師の研修の制度は、最初に戦後インターン制度が導入されて始まりました。これは卒業後1年間の研修期間の後に国家試験が受けられるというもので、いろいろな問題を爆発させて昭和43年に廃止され、昭和44年から自分がたどってきたような研修課程が始まりました。

ここでの問題は医師免許を持っていない学生は医療行為ができないということです。従って、国家試験に合格して医師免許をもらっても知識の上では医師の資格があっても、現実には医療行為はしたことがなく、すぐには実働できません。

そのために2年間の研修が義務づけられていました。この間はほとんどの研修医はほとんど無いような給料でも卒業した大学に残ることが多く、一般病院は人員が豊富な大学から出向を受けて医師を確保して成り立っていました。

その結果大学の中の組織としては正式には存在していないはずの各科の教室、いわゆる教授を「天皇」とした医局の権限が肥大化してしまったのです。つまり教授の意向で人事が決まりますので、一般病院は大学の教室に対して絶対服従せざるえないことになります。

そして、「勉強させてもらう」立場の研修医は労働時間の規定も無く、給料もほとんど無しであり、昨今の「人権尊重」の風潮からすればあり得ないような環境で労働をしてきたのです。コミックの「ブラックジャックによろしく」は随分ともてはやされましたが、現実には研修医にあそこまで物を申す知識も経験もないわけで、自分からすればあり得ない話だと思います。

それはともかく、自分たちは「素直」だったのか、医者になればそういうものだと思っていたのか、そうやって医者になってきたわけですからこれまでの制度のに対して是非を問うつもりはありません。そして2004年に30数年ぶりに研修医制度が変更されることになりました。2005年には最高裁でも研修医を労働者として正当な扱いをするようにという判決も出たそうです。

大学以外の一般病院でも研修が可能となりました。また以前に比べて大学を一度卒業してから学士入学で医学部に入ってくる学生が大変増えてきました。かれらは、大学に残ることよりも、自分の都合の良い場所で、より給料の良いところに就職することを希望します。

また、一般的に最も仕事量的なきつさのある大学病院は敬遠されるようになりました。その結果、大学の研修医は半減。現在大学にいる医者の仕事量は増大。大学からの出向は打ち切りとなり、力の無い一般病院は医師不足で縮少。特に地方でその傾向は顕著で、この数年間で一気に進んだ「医療崩壊」の直接的な原因の一つになっています。

さらに研修医は1年間は必須科をローテーションし、次の1年間は希望でローテーション。かなりの研修医が高額の給料をもらって1ヶ月単位の細切れのローテーションで各科を「見学」してまわるという事態になっています。中には勤務時間が終わったと言って、夕方帰ってしまう研修医まで現れました。

自分も研修医を指導するために厚生労働省が関係した指導医の資格を取りましたが、なかなか今の研修医の気持ちを理解することは難しい。そういう意味でも医療の現場は大混乱の中にあると言えるのではないでしょうか。

大学の教室は人事という大きな権限をそぎ落とされ、大改革を余儀なくされましたが、とはいえ大学本部レベルで異なる医療環境にある各科の医師を管理することは不可能です。各科の教室単位のまとまりは不可欠でしょう。大きな病院がどんどん機能しなくなっているつけは患者さんに回ってきます。さらに開業医ににもそのつけは見える形で回ってくるようになりました。

現代の研修医はこのような環境の中にいることを自覚していることと思いますが、医師としての最も基本的な姿勢を考えてもらいたいと思います。医師は自分自身が商品であるサービス業です。どんな医師が診療をしても商品としての値段は同じですが、腐っていることがわかれば、誰もその店では買い物はしなくなります。自信を持って自分を商品棚に並べられるように、是非謙虚な気持ちで研修に励んでください。