2008年3月16日日曜日

逆立ちしたってクリニックは病院にはなれないからな

そうなんです。大多数のクリニックは院長が唯一人の医者で、さらに入院するためのベッドを持っていません。もちろん中には、複数の医師が勤務するクリニックもありますし、最大19床までのベッドを持っているところもありますが、それは大変わずかです。

病院は、複数の医師が分業化した様々なスタッフと共同で医療にあたり、連続的な治療が必要な状況では入院という方法で経時的により密度の高い医療を行うことができます。その中でも大学病院を中心とした大規模な病院は、研究と教育という医療全体の底上げの使命も担っています。

Dr.Mの本日のブログで、今の医療問題の一端が大変分かりやすく書かれています。萎縮医療、防衛医療といった言葉は本来さびしい話ですが、現実に今の日本の現状であることは否定できません。

いきなり、根底からひっくり返すことはかなり難しいことだとは思いますので、目先のことから改革していくことは間違ってはいないのでしょうけど、それにしてもあまりに現場を無視した数々の制度変更は、ますます医療の昏迷を深めているだけと考えている医師は少なくないでしょう。

例えば、4月からの診療報酬改定の中でクリニックの再診料が平日6時以降と土曜日12時以降の時間帯で引き上げられます。500円値上がりしますので、3割負担の方は150円の負担贈となるのです。これは「もっと金を出すから病院の負担を減らすためにクリニックは休まず働きなさい」という方針の現れの一つです。

病院の機能を引き出すために、入院の必要のない軽症の病人をクリニックに誘導しようという発想は間違っていないと思いますが、患者さんの立場で考えると、現実に値段が高いクリニックにわざわざ行くでしょうか。土曜日の午後に病院に再診して薬を出してもらうと3割負担の方だと540円くらいかかりますが、4月からはクリニックにかかった場合には730円程度かかり、200円くらいよけいに必要になるわけです。

もちろん、その時間にしかかかれないという方もいますが、それなら午前中に受診しようということになれば、混雑して一人あたりの診療時間はますます減ってしまいます。だったら積極的にそういう時間に診療をしようと思っても、スタッフに働いてもらうためにはさらなる人件費がかかりますし、だいたいスタッフがそろうでしょうか? むしろ病院に受診した場合の方が自己負担が多くなるように改定することはできないのでしょうか。

逆に病院はクリニックにはなれないわけで、はっきりとして機能分離を前面に出していくことが必要です。最初に書いたように、クリニックと病院の最大の違いは医療の密度と入院ができることです。いずれにしても、まず医療費削減を前提とした改定が続く限りさらに医療の問題は迷路に入っていくのでしょうね。高齢者は増え続け、医療費が増え続けることは避けられないのですから。

とにかく何十年かして「昔は良かった」とか「古き良き時代」といってもらえるような今であるように、できる範囲で精一杯がんばることしかできない小さなクリニックの院長のぼやきでした。