クラシックピアノを語る上で、どうしても避けては通れないという作曲家が何人かいます。J.S.バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどの有名どころは当然ですが、おそらく近代ピアノのムードを確立したことでショパンとリストの二人ははずすことができません。
もともと甘いショパンはあまり好きではなかったのですが、最近は多少は聴くようにはしています。それより、ピアノ界の鉄人、リストの方がなんとなく昔から好んでいる。
そんなわけで、なんとかリストの曲をそろえたいと思うわけですが、なんとも底が深くて全容が見えてこない。ショパンなら、作品は整理されていて、今時のCDだったら15枚前後で完全な全集ができあがる。
実際、そういうショパンの企画は山ほどあるわけですが、ことリストとなると単発のアルバムは数え切れないのに、まとまった集大成されたものはほとんど見かけません。これというのも、あまりに膨大な数の作品があって、学者の方にも何が何だかわかっていないというこらしい。
そこで、手始めに有名なリスト集成というとボレットがいいんじゃないかと。シフラの集成も有名で、だいたいどちらかを手に入れれば、通常知っておきたい曲は基本的にそろうことになります。
ただ、多少聞き込んでくると、第3番とついている曲があれば、第1番や第2番も聴きたくなってくるわけです。そこで今年の新年早々に発売されたのがクリダの「全集」になります。もともと70年代に、この全集が作られたときにはだいたいこれで全部と思われていたわけです。
ところがとっこい、そのあとにレスリー・ハワードというとんでもないピアニストが現れました。そもそも音楽学者ということもあって、リストの作品を拾い集めだしていろいろと考証し、時には自ら補筆完成させるという。
有名曲の初稿や、別バージョンなんかも山ほど発掘し、リストが何気なくほぼ即興的に書いた、他人の曲の編曲物や大量のオペラのピアノ独奏版なんかもほじくりだした。
正規の作品として取り上げるかどうかは、価値判断がわかれるところでしょうが、とにかくこつこつと録音を重ねてなんと全60巻CD99枚。
一番最初が録音されたのは1985年で、2010年に最後の巻が発売され、四半世紀をかけて完成したことになり、その演奏時間のトータルは7320分26秒というから、もう驚きを超えてあきれるばかりです。
ショパンマニアという言葉は使われませんが、リストマニアというのはよく聞くわけで、もうまさにマニアによるマニアのための大全集というわけです。こんなキチガイ沙汰の企画なんて、もう誰も作ろうとは思わないでしょう。資料的な価値も高く、偉業と言わざるをえません。
ただ、一枚物で2000円くらい、2枚組なら4000円という値段は最近のCDの値段としてはけっこう高めの設定です。レコード会社もそうは売れないと思っていたのでしょうか。全部そろえるとなると20万円ちかくかかってしまうのではないでしょうか。
さすがに、自分も興味深い物だけ数点買っていますが、とても全部そろえる気持ちにはなりません。第一、全集を完成させるために、けっこうやっつけ仕事的な側面があることは否定できません。そもそも、楽譜があるからといって、聴くほどのないようなものまで含まれていますから、演奏技術的にも演奏芸術的にも疑問が残るようなところもけっこうある。
ところが、ところがですね、今年はリストの生誕200年。完成したばかりの全集がいきなりボックス化されて発売されたのです。しかも、値段はHMVで25000円弱という、もとの値段を考えると破格の値段。
とはいえ、内容的なこともありますし、驚異の価格破壊とはいえ、1万円を超えるようなボックスセットなんて、めったにあるわじゃない。さすがに購入するには、そうとうの勇気がいります。
そこで、じっと待つこと3ヶ月。ついに実売値段が下がるセールが4月はじめにあったわけです。いつもの購入値段に合わせてのポイントだと、ポイントは大量に付きますが出ていくお金はけっこうなもの。値下げセールで20000円ちょっとになったところで、貯まっていたポイントを一気にはき出してしまいました。
と、いうわけでお金を使わずポイントだけで、この高価なセットを手に入れてしまいました。あ~、99枚聴き終わるのはいつのことになるのやら。おそらく、聴き返すものは数枚(それも、すでに持っている)くらいかもしれませんが、マニアの所有欲を満たすにはあまりあるものだというわけです。