ジャズ・ピアニストにはいろいろなタイプの人がいますが、ちよっと聞いただけですぐに誰とわかるような独特な演奏家も少なくない。
音を間引いて間を作るのがモンクだとしたら、逆に多くの音を出して、時にはトリッキーな超絶技巧を駆使する代表みたいなのが、オスカー・ピーターソンでしょう。
たくさんの音が溢れてくるとうるさいという評価があったり、芸術としては抒情性に重きを置く評論家などからは、軽んじられてきた傾向がありました。しかし、それはあくまでもピーターソンのごく一部(ではありますが、やたらと目立ってしまうところ)でしかありません。
エンターテナーとして、音楽を楽しく伝えたいという現れであって、実際そういう演奏が実に聴いていてスヒード感があって爽快で楽しい。しかし、曲によってはゆったりと気持ちを作り上げていく演奏も少なくありません。
また、歌伴が多い事も、伴奏に徹して主役をしっかりと引き立てることにも長けていることの証になっており、ジャズ史そのものを動かすようなものではありませんでしたが、多くの素晴らしい演奏を残してくれた巨人の一人であることは間違いありません。
50年代前半と末に2回にわたって行われた有名作曲家の代表曲を集めた「Songbook」のシリーズは、初期のキャリアとして重要な功績となりました。誰もが知っている曲ばかりですから、まずはジャス入門としてお勧めしやすい。ただし、曲を残すことに重点が置かれているため、ピーターソンらしさは少し奥に引っ込んでいる感じがします。
ピーターソンの快進撃が聴けるのは、60年代のトリオの演奏から。歴史的名盤とは言えませんが、どれをとっても一定以上の水準でジャズの楽しさが溢れているものばかりです。
特にこのアルバムは、ベースのレイ・ブラウン、ドラムのエド・シグペンとの鉄壁の協調の集大成のような作品。気心知れた仲間と、スタンダードを中心にやりなれた曲ばかりの選曲というリラックスした雰囲気の中で、きっちりとした作品を仕上げようという気心が伝わってくる名盤です。