このルールに従わないで、上と中、あるいは中と下に単語が続いている場合を「句またがり」と呼びます。五七五の韻律が狂うので、声に出して読んでみるとリズムが悪くなりやすいので、初心者は安易に使うテクニックではありません。ただし、上級者がわざと句またがりの俳句を作るというのは普通にある。
春惜しむ宿や日本の豆腐汁 正岡子規
子規の名句とされるこれは、まさに句またがり。一見すると、上は「春惜しむ」で5音、中は「宿や日本の」で7音、下は「豆腐汁」で5音。定型句のように見えてしまいますが、内容から「春惜しむ宿や」と「日本の豆腐汁」の上8音、「日本の豆腐汁」で下9音に分割されます。
同じような形式では、
我と来て遊べや親のない雀 小林一茶
も有名です。これも区切りは「・・・遊べや」の後ろが間違いなく切れています(最初の5文字でも切れそうですけど)。
句またがりを使うと、5文字、7文字の制限を突破できるので表現の仕方が増やせるのが最大のメリットです。一方、またいだ分、前後にしわ寄せが来ますので、そこをどう収めるかが難しい。やっていけないわけではなく、テクニックとして知っていて損は無いけど、それなりの覚悟がいるということです。
うつし世はゆめ夜の夢こそまこと 江戸川乱歩
これは季語が無いので、俳句としては無季の句、場合によっては川柳ということになりますが、江戸川乱歩が色紙に添えた一句。これも全部で17文字ですが、上七、下十の句またがりです。
「うつし世」は漢字だと「現世」と書き、現実の世界を意味します。現実が夢で、夜の夢が本物(真)とは、まさに乱歩の作品世界を見事に言い表していて、高校生の頃あまりにも印象的で気に入り覚えていました。
句またがりに挑戦してみました。
葭切(よしきり)見渡すも声の場所何処(いずこ)
ヨシキリはスズメの仲間で、写真がそうなのかは自信がありません。葭切が夏の季語ですが、ヨシキリの鳴き声から「行々子(ギョギョシ)」とも呼ばれ、これも夏の季語に使えます。
電線に一羽だけ止まって「まわりを眺めているけれども、仲間の声がする場所がどこだかわからない(ため困っているように見える)」という感じ。上9音、下8音の構成。かなり無理した感じがしますけど、とりあえず形にはなりました。
ただし、声に出すと、葭切が見渡しているはずが、自分が葭切を探していて鳴き声の場所が見つけられないという意味にも取れてしまうと気が付きました。季語である「葭切」をもっと強調できないと凡人句と言わざるを得ない。
葭切とまりて声何処と望む
どうでしょうか、季語の葭切が主役になったでしょうか。句またがりは、無理して作るものではなく、使いたい言葉が5文字あるいは7文字に収まらないという必然があって、初めて使われるテクニックです。無理してするもんじゃありませんね。