2022年11月3日木曜日

俳句の鑑賞 38 三遊亭圓樂


ここでは三遊亭圓樂は、六代目のこと。昭和の人間は、圓樂というと馬面の五代目の印象が強い。六代目は、1970年に五代目に入門して六代目圓生に命名された楽太郎と名乗っていた期間が長く、五代目が2009年に亡くなったことで、六代目を襲名しました。

三遊亭の大名代は圓朝と圓生。そして圓生と言えば六代目(1900-1979)。おそらく、今まで聞いたことがある最高の噺家だと思いますし、落語のベースとなる文化が忘れられた現代では、六代目圓生を超える落語家は出るべくもない。

六代目圓樂は、圓生の襲名にかなり思い入れがあったのだそうです。ですが、最近の圓樂の落語を聞いていないので、よけいなことは言えませんけど、やはり圓生は六代目があまりにも偉大であり、五代目圓樂もまったく及びもしない存在でしたから、個人的には到底難しいことだったと思います。

だったと過去形になってしまうのは、六代目圓樂は2022年9月に亡くなったからですが、落語界として考えれば惜しまれる存在だったことは間違いありません。六代目圓樂は、「プレバト!!」の俳句コーナーにも出演し、名人初段まで上がってきていたので、病気のことが無ければこちらも残念なことでした。

番組内では、全部で22句を詠んでいますが、夏井いつき先生に添削無しとされた句をいくつか拾い上げてみたいと思います。

町会長犬を預かる盆踊り 圓樂

お題は「盆踊り」です。盆踊り大会に誰かの大事な犬を預かって、自分は大会には行けないという、ちょっととぼけた噺家らしい俳句です。

チーママの裾はしょりたる梅雨の夜 圓樂

お題は「雨の銀座」で、季語としては「梅雨」を使っています。チーママは小さいママさんの意味で、スナックなどの女主人(ママさん)に次ぐ二番手のこと。着物の裾が濡れないように、片手で傘、片手で裾をちょいと持ち上げているという艶っぽさがある感じ。

塩鮭の喋るが如き売り子かな 圓樂

お題は「年末のアメ横」です。大声で客を読んでいる店員さんの姿が見えてきます。売り物の塩鮭を持ち上げて、もうまるで鮭が喋っているみたいという活気あふれる映像です。このあたりから、落語家としてのウケよりも、本気で句作し始めた感じがします。

段雷に靴紐きつく秋の朝 圓樂

お題は「運動会」で、一発なら号砲というところを、何発も続けざまに聞こえたので連続打ち上げ花火に例えて「段雷」という言葉を使ったようです。運動会にかける意気込みが詠まれています。

氷壁崩落白玉を掘り出す 圓樂

お題は「アイスクリーム売り場」です。アイスクリームというよりかき氷でしょぅか。スプーンでざくざくとかき分けていくのを「氷壁崩落」という大袈裟な表現をしたところが面白い。何だろうと思っていると、中から出てきたのが白玉というのがお茶目。

夕立や尻っぱしょりを犬が追う 圓樂

お題は「雨宿り」です。これは噺家ならではの俳句でしょう。熊さん八っさんの世界。おっと夕立だぜ、向こうの軒下まで一走りだ、と尻っぱしょりして駆け出すと、野良犬がワンワンと吠えて追いかけていく様子がありありと見えてきます。

この句が、一番良いなと思いました。噺家の俳句という、他の人では思いつかない世界が描けていると思います。元気であれば、もっとこのようなオリジナリティのある句が披露できたのでしょうね。ご冥福をお祈りします。

「プレバト!!」で芸能人が詠んだ句を、夏井先生の評も含めて、詳細に聞き書きしたブログを続けているプロキオン氏のサイトを参照させていただきました。テレビでは掛け捨てになってしまうところを、このような形でまとめられていることは大変な労力だと思います。