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2022年11月14日月曜日

俳句の鑑賞 43 松本たかし


もちろん、作詞家の松本隆とは別人。関係ありません。松本たかし、本名は孝は、明治39年(1906年)に東京の神田で代々能役者の家柄の長男として生まれました。生涯、高濱虚子に師事し、「ホトトギス」の困難期を支えた俳人です。

5歳から能を始め、8歳で初舞台を踏むも、肺病のため16歳で淡路島に転地療養を余儀なくされます。療養中から俳句を始め、大正12年、17歳の時に「ホトトギス」へ投句するようになります。

病気のため能役者を断念せざるを得なくなり、ますます俳句へ傾倒するようになり虚子もその芸術味を評価し、23歳で巻頭に選ばれました。

鶺鴒のあるき出てくる菊日和 たかし

白菊の枯るるがままに掃き清む たかし

鶺鴒(セキレイ)は、水辺を好む比較的普通の小鳥。白露の第二候、9月半ばの頃を七十二候では「鶺鴒鳴く」となっていて、ことさら泣き声が目立つようです。そんな鶺鴒も喜ぶような良い天気、そして菊がたくさん咲いて多くの花びらが落ちてくる様子を詠んだもの。

虚子は、たかしの句は写生であるが、その表現方法が詩的で空想化されたような印象であると述べています。「ホトトギス」同人となったたかしは、ますます「花鳥諷詠」を重視するようになります。

雪残る汚れ汚れて石のごと たかし

夢に舞ふ能美しや冬籠 たかし

能役者は断念しましたが、鼓はかなり練習し名手であったようです。長男として能を継げなかったことは、精神的な重荷になったことは容易に想像できます。たびたび、ノイローゼになって、句作にも影響することもしばしばでした。

昭和6年ごろから、同じ「ホトトギス」の高野素十、川端茅舎らと交友関係が深まり、互いに影響し合うようになります。そして、昭和21年、「笛」を創刊し主宰します。昭和31年2月、脳梗塞を発症し、5月11日に心臓麻痺により死去、50歳でした。

猫飼えば猫が友よぶ炬燵かな たかし

草枯るる猫の墓辺に猫遊び たかし

戦後は久我山に住んでいましたが、猫を飼っていたようで、猫に関する句が多く、その多くは微笑ましくも一抹の悲しさを持っていました。「笛」の表紙にも猫の絵がよく登場したようです。