寒卵・・・「かんたまご」と読みます。それにしても、兼題にはすごくありふれたものか、あるいは聞いたことが無い言葉が出てくる。寒卵は聞いたことが無い方。どちらも難しいのは一緒です。
「寒卵」は晩冬の季語で人事生活に関する物とされていて、「寒中に鶏が産んだ卵。この時期は滋養が多く、保存もしやすい」とあります。冬だからことさら美味しいと意識したことがありませんでしたので、特に冬と結び付けて思いつくことが無いので困ります。
寒玉子割れば双子の目出度さよ 高濱虚子
これはわかりやすい。卵をわったら、黄身が二つ入っていた。誰でも何かラッキーっと思うところを詠んだもの。虚子でもこんなことで喜ぶんだと、微笑ましく思います。
寒卵薔薇色させる朝ありぬ 石田波郷
さすが「ホトトギス」系ではない波郷の句。有季定型を守りつつ、詩情性を重視。膳に生卵も出てくる冬の朝の一コマですが、「薔薇色させる」が深い。おそらく黄身の色が濃くて赤味が強かったことで、より美味しそうに思えたということでしょう。ちなみに、明らかに血が混じっていることがありますが、血卵(けつらん)と呼びます。
奴隷の自由という語寒卵に澄み 金子兜太
これはよくわかりません。19文字で、句切れがはっきりしないし、どう読んでも全部が字余りでリズム感が感じられない・・・でも、歳時記に載るんだから秀句ということらしい。使われる言葉の印象が強いのは兜太の特徴でしょうから、そこはよしとします。
大つぶの寒卵おく襤褸の上 飯田蛇笏
「襤褸(ぼろ)」はいわゆる「ボロボロ」、古くなった布などのこと。もちろん、ボロ布の上に卵を割ったわけではなく、質素なご飯、麦飯とか雑穀の上に載せた寒卵が御馳走だということ。農村作家としての蛇笏の面目躍如みたいな句だと思います。
寒卵つぶしてまぜれば醤油色
いくら寒卵と言って特別扱いしても、卵かけご飯にするとかけた醤油で茶色くなるよね、というつまらない句。もしかしたら夏場よりは美味しいのかもしれませんが、何しろ意識して試したことが無いのでわかりません。「潰す」、「混ぜる」というのは漢字だときついかなと思いひらがなにしましたが、動詞を並べるのはあまりよくなさそうです。
寒卵世界を駆ける日本人
やや時事俳句っぽいですが、白人中心社会の欧米の中で活躍する日本人へのエールくらいのもの。まぁ、あまり説明すると人種問題になりかねないので、サラっと終わらせておきます。
光射し二度生まれ出る寒卵
何か宗教的な雰囲気もありますが、特にキリストを寒卵に例えたわけではありません。卵として生まれた時、そして食べられるために殻を割れれる時、卵は2回生まれているんだなぁという気持ちです。卵の中では、カツンっと衝撃が走りヒビが入ると、さっと光が射しこんできて、卵もいよいよ活躍する時だと意を決しているのかもしれません。
例によってあまり人を唸らせるような俳句ではありません。いつまでたっても素人句のままです(もっとも素人ですが)。門前の小僧・・・と言いますが、暗唱できれば何とかなる念仏と違って、俳句は自分で考えないと駄目なので、さらなる修行が必要です。