それにしても、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターという人は、一体何国人だろうと思ってしまいます。いや、スウェーデン出身、ストックホルムで1955年に生まれたことははっきりしているんですけどね。
ヨーロッパは、英語、ドイツ語、フランス語が入り乱れている地域ですから、ある程度生まれと関係なくいろいろな言語を操れる人はたくさんいるだろうことは容易に想像できます。
でも、オッターの出身は北欧です。フィンランド語とノルウェー語に挟まれて、スウェーデン語が母国語ですし、大陸側とはバルト海で隔てられているんですよ。オッターは、ドイツ語のバッハ、モーツァルトはいうに及ばず、フランス語のベルリオーズなども完璧にこなします。
音楽の幅の広くて、バロック、宗教曲からオペラ、歌曲は当然のことのようにこなし、しかもスウェーデンのスーパースターABBAのカバー・アルバムを出したり、エルビス・コステロと共演したりもする。当然、その中では英語でも歌っているわけで、オッターの各国語の発音は完璧と評価されています。
日本のクラシック系歌手の一番辛い所が発音だろうと思いますが、海外の有名歌手でも母国語以外の歌唱では、しばしば発音の良し悪しが取り沙汰されることは珍しくはありません。
そんなわけで、今回紹介するのはフランス語。セシル・シャミナードの歌曲のアルバムです。ちなみにドイツ語歌曲のことはリート(lied,lieder)と呼びますが、フランス語歌曲はメロディと呼びます。
シャミナードは1857年パリ出身で、自立した最初の女性作曲家といわれています。ピアノ曲も優れた作品が残されています。ところが、存命中は人気があったにもかかわらず、病気による引退、戦争に向かう社会情勢の変化などにより忘れられた存在になっていました。
ピアノ曲は90年代から再び取り上げられるようになりましたが、歌曲についてはメジャーな会社ではオッターの本アルバムくらいしか見つけられません。そういう意味でも、大変貴重で価値があります。
女声らしい・・・という表現は、一定の色眼鏡をかけているようであまり使うべきではないかもしれませんが、少なくとも堅苦しいメロディはほとんどありません。なんとなく聞いていると、初めて聞くシャンソンのようなポップス感もあります。フランスの有名な印象派作曲家のドビッシーやラベルと活躍した年代が被りますが、まったく違う感じです。
オッターも曲調を意識してか、軽く弾むように楽し気に歌います。アルバム・タイトルは日本語だと「愛の言葉」ですから、まさに歌詞がわからなくても雰囲気は十分に伝わりますね。