2023年1月3日火曜日

俳句の勉強 68 新年の季語 2


現代でも知られている、正月の風物詩を季語の中から選び出しています。

本来は、家々を訪れて祝福する芸能の一つが「獅子舞」、あるいは「越後獅子」と呼ばれる物ですが、今ではテレビでしか見ることはありません。たまに、店の前で余興として行われている程度。

格子戸を出て獅子舞の煙草喫ふ 星野立子

太鼓橋の裾の猿曳人だかり 星野立子

高濱虚子の家にも、獅子舞が御祝儀目当てでやって来ていたのかもしれません。娘の立子は、偶然に、格子戸の外に出て獅子舞を演じた者が一服して休憩している様子を見たんでしょうね。

似たような芸能に「猿回し」がありますが、さすがに生き物を扱うので獅子舞よりも大変です。今は、テレビか特別な場所でしか見れません。高濱家があったのは鎌倉ですから、この太鼓橋は鶴岡八幡宮の入口に架かる橋のことでしょう。初詣に出かけた立子が目にした光景です。

生まれた年とその年の干支が同じ者の中から、五穀を守る歳徳神を祀る準備の大役に「年男」が選ばれます。最近は、節分で豆まきをする人の呼び名として知れられています。選ばれるというと光栄なことで、一般には歳徳神のご加護を得られると言われています。とは言え、実際は年末から三が日まで、正月関連の雑用全般をしなければならないので大変だったのではないかと想像します。

年男勤め終りし素袍脱ぐ 島村茂雄

「素袍(すおう)」は下級武士の平服、あるいは平民の礼服で、堅苦しい服を着続けた仕事からやっと解放されて、安堵の様子が伝わります。

春の七草を用いて七日にお粥を食べるというのは、今でもスーパーにセットが売られているので、たいていの家庭で行われていそうです。一般的な七草は、芹(せり)、薺(なずな)、御形(ごぎょう)、繁縷(はこべら)、仏の座(ほとけのざ)。菘(すずな)、蘿蔔(すずしろ)ですが、ナズナは通称ぺんぺん草、スズナは蕪(かぶ)、スズシロは大根のこと。

その藪に人の住めばぞ薺打 一茶

八方の岳しづまりて薺打 飯田蛇笏

季語としては「七種」が一般的。本来は、六日の晩に七草を俎板に並べて叩くというところから、「薺打」、「叩き菜」などの季語もあります。二人とも時代こそ違いますが、静まり返ったところに七草を叩く音が響き渡ることを詠んでいます。

秋田県の伝統行事としてよく知られているのが「なまはげ」と「かまくら」で、正月行事を締めくくる小正月(15日ごろ)に行われますが、現在はなまはげは大晦日、かまくらは2月半ばのようです。

なまはげの鬼の口より酒の息 本谷久邇彦

かまくらの明一本の燭で足る 山口誓子

正月15日にお正月様が帰っていくための煙を焚き上げる行事が「左義長(さぎちょう)」で、「どんと焼き」というほうが馴染みがあるかもしれません。今では、注連飾りや松飾、あるいは古いお守りやお札を焼くための行事として続いています。

山神にどんど揚げたり谷は闇 長谷川かな女

左義長へ行く子行き交ふ藁の音 中村草田男

他にもたくさんの正月の季語がありますが、それぞれの神社仏閣の固有の行事を除くと、風習としては忘れられてしまったものが多い。残せるものは残すべきですが、残念ながら時代の変化によって消えていくのも仕方がないところ。

自分の知っている言葉だけでも、俳句の中に利用して遺しておくのも意味があるかもしれません。