2023年1月2日月曜日

俳句の勉強 67 新年の季語 1


歳時記を開くと、大分類として四季があります。ただし、本来春に含まれる1月だけは、信念として独立した大分類になっていて、これだけで他の4つの季節にせまる数の季語が収録されています。

だいたい「初××」という言葉はほぼ間違いなく新年の季語なので、悩むことはめったにない。また、だいたい正月独特の風習も問題ないのですが、時代の変遷と共に忘れ去られたものが多い。そういう季語は、現代人としてはピンとこないし、俳句にしても絵空事的なものになってしまいます。そこで、今でも説明なしにほとんどの人に理解されるような言葉を拾い集めてみました。

おせち(お節)というと、正月の定番料理ですが、季語としては「喰積(くいつみ)」、あるいは「重詰」と呼びます。本来は、儀礼的に不変の縁起物を重箱に詰めて客に出したものですが、冷凍技術が進んだ現在は、和洋中なんでもありで美味しい物が並びます。

喰積のほかにいさゝか鍋の物 高濱虚子

昔「おせちにあきたらカレーもね」というCMがありましたが、虚子もおせちばかりでは飽きてしまったようです。いかにも正月あるあるな俳句。

次の子も屠蘇を綺麗に干すことよ 中村汀女

「屠蘇(とそ)」は、おせちと共に正月に延命長寿の縁起物として振る舞われる薬酒です。みりんの中に生薬の入った小袋を入れておきます。朱色の大中小の三段重ねの盃に、本来は別々の生薬からの薬酒を注いで飲んだらしい。

自分も、こどもの時に親からは「真似事」として飲まされた覚えがあります。はっきり言って、変な匂いがして甘ったるいので一口でも正月早々に罰ゲームをやっている気分。言葉としてはまだ残っているのですが、ほとんどの家庭では好きなお酒を飲むだけが普通になっていそうです。

「雑煮」は今でも普通に使われている言葉。「羹(かん)」とも呼び、「羹を祝う」、「雑煮餅」、「雑煮椀」なども傍題として使われます。

しんしんとすまし雑煮や二人住 一茶

雑煮に入れる物は、地域によって様々ですし、味付けも鰹出汁、鶏ガラ、味噌など様々。正月といっても、一茶の貧しい家では、入れる物がなかったのでしょうか。すまし汁は、出汁、醤油、塩で味を整えたスープで、ここにいろいろな物を合わせていくベースみたいなもの。

雪国のありとも見えず松飾 長谷川かな女

「門松」、「松飾」は現在も用意している家が多い。とも言っても、立派な門松を門の両端に設置するほど立派な家はそうそうありません。せいぜい、細い松の枝を入口にくくりつけていることがほとんど。手軽な松飾は玄関に貼り付けるだけですので、自分も重宝して使っています。片付けるのは「松納(まつおさめ)」で、一般的には六日の夕に行います。

丸餅を二つ重ねて飾るのが「鏡餅」で、今では真空パックになってプラの蜜柑の模型が乗っていることがほとんど。丸くて鏡みたいというわけではなく、心臓をかたどったもので「魂」を表すものと考えられています。

鏡餅暗きところに割れて坐す 西東三鬼

正月気分が抜け始める頃に、気づくと乾燥してひび割れが入った鏡餅が置き去りになっていたことに気がついたということ。ちょっと哀し気なところが、逆に現実感を強めています。普通は十日間飾っておき、十一日に「鏡開」として割って食します。刃物で切るのは縁起が悪いので、割って開くということ。

正月らしい遊びといえば、「歌留多(かるた)」、「双六(すごろく)」、「福笑い」、「羽子板」、「独楽(こま)」などがあります。注意しないといけないのは、「凧上げ」は新年ではなく春の季語になっていて正月に限定されないということ。

胼の手も交りて歌留多賑はへり 杉田久女

ばりばりと付録双六ひろげけり 日野草城

羽子板の役者の顔はみな長し 山口青邨

「胼」は皮膚の固くなった「たこ」のこと。昔は、こども月刊誌などの1月号の付録に双六がついているのが普通でした。立派な羽子板には、当代の人気歌舞伎役者の顔を模した立体感のある飾り付けがしてあります。

いずれも誰もが知っているとは思いますが、古くからあるアナログな遊戯なので、しだいに消えていくようです。実際、ほとんど見かけなくなりましたね。