音楽の傾向としては、実は自分としては苦手な後期ロマン派の潮流の中心で、どこで感動すればいいのかよくわからないところが悩みの種。ところが、けっこうたくさんある歌曲となると、これがなかなか良い感じなのです。
20世紀が生んだ史上最高のバリトン歌手、ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ。おそらく、現存する演奏可能なリート(ドイツ歌曲)は、すべて網羅し録音を残しました。他にも、オペラへの出演や音楽祭への客演も多数あり、そのディスコグラフィーを完成させることはかなり困難です。
一個人が蒐集するなら、ある程度有名な作曲家に絞って、何度も歌われたものの中から最も評判が良いものに限定するのが現実的。当然、シュトラウスもその中に含まれます。
フィッシャー=ディースカウは、全集を意識したまとまった録音を二度行いました。最初は1967年から1970年にかけてEMIレコードに、そして二度目は80年代前半にドイツ・グラモフォンに行いました。
収録されている曲はほぼ同じなので、どちらを選んでもよさそうなのですが、やはりキャリアの上からフィッシャー=ディースカウの声の全盛期と言える60~70年代をチョイスするのが無難というもの。ピアノ伴奏は、EMI盤は盟友ジェラルド・ムーアで、DG盤はヴォルフガンク・ザパリッシュです。
しかも、CD3枚のEMI盤は現在はワーナーから格安のボックスが販売されていて手に入れやすい。シュトラウスだと構えて聞くと意外に聞きやすいのは、フィッシャー=ディースカウの歌唱によるところが大きいのかもしれません。バリトンと言ってもテノールまで含まれそうな音域と、柔軟な表現力、甘美な声質、どれをとってもさすがと思わせる歌唱は、本当に他の追従を許さない。
ただし、例によってフィッシャー=ディースカウの場合、「全集」と言っても歌詞の内容や、女声と指定されたものは省かれる。特にシュトラウスの歌曲を聞こうとすると、最も有名な「4つの最後の歌 (Vier Letzte Lieder, 1948)」が女声用なので含まれていないのが残念なところ。
これについては、古今あまたの名演がありますので、好きな女性歌手のものを聞けばいいんですけど、自分の場合は黒人のソプラノ歌手、バーバラ・ヘンドリックスがまとまった録音を残していたのでチョイスしました。