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2008年5月13日火曜日

善か悪か

昔昔、孟子が人間の本性の基本は善であると説き儒教の基本思想となった。日本も儒教に強く影響を受けて発展してきた国であり、少なくとも戦前までは儒教が基本理念にあったと思われる。

では、現代の日本ではどうなんでしょう。対する性悪説を支持する人もいて、もともと悪いのだから、教育(正しくは「礼」)が必要なんだという考え方も頷けます。

医者は病気の人を診察し、正しく診断して病気を治すことが仕事であり、患者さんが嘘を言っていると考え出しら、仕事になりません。「痛い」という言葉を否定してしまったら、自分の仕事を否定するとになります。

もちろん、痛みは主観的な表現ですから、人によって程度は様々。もしかしたら、一般的な基準から見れば、たいした痛みではないかもしれません。それを増幅して訴えているかもしれません。でも、小さくても痛いところがあることから出発することが重要です。そういう意味で、「性善説」の立場を支持するわけです。

整形外科では交通事故で痛みを訴える患者さんを見ることがしばしばあるわけですが、よく思うことは保険会社というのは性悪説を基本としているのだろうか、ということです。患者さんの主観的な表現、つまり「痛い」とか「しびれる」というような客観的な証明が出来ないことに対しては、一切聞く耳を持ちません。

確かに、虚言を弄して保険金詐欺をはたらくものがいないとは言えませんが、自分のように性善説の立場で考えるものからすれば、たいへんはがゆいものです。実際、あれだけ保険会社の不払いが問題になっても、なおいかに払わないようにするかしか考えていない会社が未だに存在しているわけです。

通常、交通事故のケガは第三者行為といって通常の健康保険は使用できません。使用する場合には受診前に健康保険組合に届け出て許可を得ることが基本になっています。

しかし、保険を使ってもらえば保険会社は自己負担分の3割しか払わないですみますし、場合によっては様々な交渉事も本人まかせというところすらあります。また、通勤災害として労災にさせて、一切手を引いてしまうところすらあります。

まぁ、損害保険会社に文句を言うのが今日の目的ではないので、このくらいにしておきますが、とにかく性悪説という考え方がけしてマイナーなものではないという実例の一つというところでしょう。

幸い、自分はクリニックを開業してから、数人のいわゆる「モンスター・ペイシェント」に出逢いましたが、それはごく少数で、大多数の善良な患者さんによって大きな問題も起きずにここまでやってきました。

たまたま近くでけがして受診したかたに松葉杖を貸しても、数日後に埼玉から宅急便で帰ってきました。保険証を忘れてきて受診しても、翌日にはファックスで知らせてくれました。これからも人間はみんな善人なんだと思いながら仕事を続けたいと思っているのです。