2008年5月26日月曜日

夏からの関節リウマチ治療

自分は関節リウマチにずいぶん前から興味を持っていて、長年お世話になった母校を辞して、東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センターへ移籍したのが2000年のこと。思えば、これ以上の絶好のタイミングは無かったと言えます。

前の年にメソトレキセートという、それ以前の抗リウマチ薬とは一線を画する薬剤が登場し、関節リウマチ治療にとって激動の21世紀の幕開けとなりました。

2003年に本邦初となる生物学的製剤という、まったく新たな概念のリウマチ薬が登場し、MMP3や抗CCP抗体といった新たな検査が保険適応となりました。また副作用の大問題を起こした新薬も経験し、とにかく新しい情報に絶えず気を配っていないと、どんどん置いて行かれてしまうような情勢です。

今年の7月から新たな生物学的製剤が出そろうことが決まり、今年の夏からは関節リウマチの治療方針を一度整理しておく必要が出てきました。もはや、今まではこうやっていたから、これからもこれでいいというようなやり方ではリウマチ治療を行っていくことはできません。

しかし、診断については未だに古い基準にある程度縛られてしまいます。アメリカ・リウマチ学会の作った分類基準は全世界的に使われていて、改定の必要は言われてはいますが、いろいろなサブカテゴリーを追加しながら現在でも使われているわけです。

この基準が作られたのは1987年のことです。これだけ変化しているリウマチ医療の中で、すでに20年間も同じものを使っているというのも情けない感じです。日本で独自に使われている早期基準を重視して、さらに非科学的ではありますが、「医者の勘」にある程度頼りながら、やっていくしかありません。

ただし、基本となる症状は関節炎であることには変わりありません。複数の関節が腫れていることが大変重要です。そして、血液検査は「医者の勘」を裏付けるものとして使われます。疑わしい場合には、さらに抗CCP抗体測定をすることで、かなり確定精度を高めることができるようになりました。

さて、関節リウマチであると確信した場合は可及的に治療を開始します。早いほど骨の変形を起こす可能性が減りますし、また実質的に治った状態が得られるかもしれないからです。第一選択としては、メソトレキセート(ワイス製薬 リウマトレックス)が使用されるべきでしょう。数ヶ月以内に効果が認められない場合には、薬の増量・変更・追加を検討します。

この中には生物学的製剤も含まれますが、現状ではすでに使われている点滴で行うインフリキシマブ(田辺三菱 レミケード)か自分で皮下注射で行うエタネルセプト(ワイス=武田 エンブレル)の2種類が候補として考えられます。

ここで問題になるのが薬の値段です。どちらも自己負担分で月平均3~4万円程度かかってしまうため、経済的負担はばかになりません。自分のクリニックでは、比較的遠方の方、あるいは自分で注射できない方にはインフリキシマブをお勧めしています。クリニックから近い方や、自分で注射器を扱える方にはエタネルセプトの方が便利です。どちらも基本的には効果や副作用などは同等のものと考えてかまいません。

さて、新しい生物学的製剤はどのように使えばいいでしょうか。一つはインフリキシマブの皮下注射版という位置づけのものでアダリムマブ(アボット=エーザイ ヒュミラ)、もう一つはそれ以外とはまったくターゲットが異なる点滴で投与するトシリズマブ(中外製薬 アクテムラ)です。

いずれも使用する場合には厚生労働省へ登録をして経過を随時報告しなければなりません。今のところインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブで効果が無い方も、トシリズマブなら効果が期待できます。ただし、およそ1年間程度の登録期間で、今までわかっていなかった副作用などの問題が明らかになる可能性があるので、投与は慎重に行われるべきでしょう。

自分のクリニックでも、トシリズマブについてはすでに投与可能な施設として登録してもらえるように準備は始めていますが、まだまだ積極的に使用できる環境が整っているとはいえないでしょう。アダリムマブについてはまだ製薬会社からのアナウンスはありません。

いずれにしても、効果が出れば内服薬とは比較にならないくらいリウマチを抑え込めるので、今後の治療の主役はこれらの薬になっていくことは間違いありません。

クリニックもより、安全に薬を使えるように、ますます考えて準備をしていかなければなりません。周囲のリウマチ専門医、あるいは一般内科医との協力、重大な副作用対策として入院可能な病院との連携は必須です。今まで以上にこれらの整備を確実なものにしていかなければなりません。

まだまだこれで十分とはいえませんが、関節リウマチの患者さんが安心して治療を受けることができるようにさらなる努力をしていきます。