世間が''We Are The World''で盛り上がっていた同じ頃に、もう一つあまりぱっとしなかったエイド物がありました。''We Are The World''が、特定の何かを批判するよりも困っている人を救援することが目的で、誰もが賛同しやすかったのに対して、もう一つは攻撃対照がはっきりしていました。
南アフリカでは、当時アパルトヘイト政策がとられ、白人と黒人は政治的に明確な差別が堂々と行われていたのです。ネルソン・マンデラらの活動家は拘束され、国際社会からも多くの非難が起こっていました。確か、日本人は「名誉有色人種」みたいな扱いでしたよね。
SUN CITYは、当時南アフリカの白人のための娯楽スペースで、音楽家などからは差別の象徴のような存在でした。そこでアパルトヘイトに反対する音楽家が集まって、「SUN CITYなどでは、演奏するもんか」的なエイドを行ったのです。
今でこそ当たり前ですが、ヒップホップ系の当時としてはかなり新しい感覚の音楽です。政治色が強く、攻撃的な内容が不利だったのか、日本ではやや盛り上がらなかったのですが、これも登場するのはそうそうたるメンバー。
リンゴ・スター、ボノ、ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディラン、パット・ベネター、ピーター・ガブリエル、エディ・ケンドリックス、ジミー・クリフ、ホール&オーツ、ボニー・レイット、ルー・リード、ザック・スターキー、ジャクソン・ブラウン、ピーター・ギャレット、ピート・タウンゼントなどなど・・・
政治的な部分はともかく、自分の場合は実はこれにはかなりの注目点がありました。なんと、マイルス・デイビスが参加しているんです。YouTubeでも''Artists United Against Apartheid - Sun City''でプロモが今でも見れますが、イントロにかぶってくるトランペットがマイルス。静止画もちらっと出てきます。
当然マイルスは、参加といってもオバーダビング。それにでも、マイルスは自分の名義以外に顔を出すというのは極めて希なことで、これは当時としても「事件」だったわけです。しかも、この後はマイルスは亡くなるまで何でもあり状態になり、あちこちに顔を出すようになりますけど。
ところが、驚いたことはそれだけではなく、この''SUN CITY''のアルバムでは、さらに2曲に参加している。しかも、そのうちの一つは、鉄壁のクインテットと評されたハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスらとの競演というから、ぶっ飛んだ。
このメンバーが一緒に演奏していたのは1964~1967まで。およそ20年ぶりという、再会セッションですから、ファンとしては狂喜乱舞の大注目。もちろん、昔のことはやらない。今のマイルスがでてくるんですが、それがそれでかっこいい。
主義主張がない話で申し訳ないのですが、そんな点が気に入っているという話。でも、このような運動がマンデラ大統領を作る一つの要素だったということは感慨深いものがあります。