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2014年1月4日土曜日

海外特派員 (1940)

極上のサスペンスを求めるならば、基本中の基本と言えるのが、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画。先駆者と呼べる人たちは、いつの時代でも得なもので、もしかしたらもっと優れた人材が出てきても、なかなか勝てるものではありません。

ヒッチコックの映画が素晴らしいのは、映画の技術的な基本が詰まっているだけでなく、映画を見せる・・・つまり観客を喜ばせるエンターテイメントとしての完成度の高さという点にあると思います。

観客が喜ぶというのは、何も爆笑することではなく、「観てよかった」と思うことであり、シリアスな文芸作品であってもかまわない。ヒッチコックは、そのベースをサスペンスにしていただけ。

ヒッチコックが、今でも評価されるもう一つの要因には、実験性という点も忘れてはいけません。映画の中でいろいろなことをするのは、製作者の自己満足に陥りやすく、必ずしも成功するものではありません。ヒッチコックとて、それは同じです。

「ロープ」ではワンシーン・ワンカット・リアルタイムに話が進行し、話がだれる部分もあれば、間が無さすぎのところもある。カット割りをしないことで、サスペンス感はかなり減弱していることも否めない。

「救命艇」は、漂流するボートの中に限定したことで、全体の動きがなさすぎ。「ハリーの災難」では、死体をめぐる行ったり来たりの繰り返しが冗漫な印象を与えます。

「ダイアルMを回せ」も3D撮影のための無理な遠近感の設定や、基本的にアパートの一室に限定した展開をストーリーに無理強いしている部分があります。

だからといって、それらの作品の価値がそれなりに残るのは、最初に書いた「先駆者としてのお得」もありますが、最終的に観客を喜ばせたいというヒッチコックの気持ちがあるからなんでしょう。

戦前から映画作りをしていたヒッチコックですから、幾多の名作が目白押しですが、その中で意外と知られていない、最もヒッチコックらしい映画の一つとして「海外特派員」があります。

戦後のユニバーサル、ワーナーなどの大企業の作品は、何度も繰り返しビデオ、DVD、Blurayとして登場していますが、この作品は一時紀伊国屋書店がDVDで出したくらいで、ほとんど出回っていません。

自分も、ずいぶんと昔にテレビの深夜映画で見たきりで、ずいぶんと昔のことです。ただ、後年「北北西に進路を取れ」で完成する、ヒッチコックの得意とする世界中のあちこちを移動しながら、もともと無関係な主人公が巻き込まれ型でかかわっていくサスペンスの最初の傑作という印象は今も変わりありません。

もともとは戦時下の作品ですから、二重スパイを告発するという戦意増進目的のプロパガンダ的な側面があるのでしょうが、ほとんど感じさせること無く一気に話に引きずり込まれてしまいます。

マクロからミクロへという、俯瞰ショットから近づいていく得意の撮影もすでに登場し、上から開いた傘が密集する中を傘の動きだけで暗殺犯が逃走していくシークエンスは見事。風車を使ったスリルも有名ですし、とにかく話の展開にだれが無い。

最後の飛行機が海に墜落するシーンも有名で、スクリーンプロセスの幕を破って、本物の大量の水が操縦席に流れ込むところは迫力難点です。今でこそ、CGでいくらでもできることですが、スタッフとキャスト全員が体を張って作り出す映像に勝ることはありません。

白黒で古臭いと思うかもしれませんが、本当の映画の楽しみが感じられる作品の一つであることは間違いありません。著作権切れで、ワンコインDVDでも出ているので、ぜひじっくりと見てもらいたいと思います。

☆☆☆☆☆