2022年9月12日月曜日

俳句の勉強 35 月百句 #1~#10


月は自転せずに地球を周囲を約29.5日周期で公転し、太陽光の当たり具合によって地上から見える部分が変化するため、これを「満ち欠け」と呼び歴史的には太陰暦に利用されています。日本では、明治5年に太陽の動きを基にした太陽暦に変更されましたので、太陰暦を旧暦(あるいは陰暦)と呼ぶようになりました。

月の満ち欠けのカウントは、月が真っ黒で見えない状態からスタートします。天文学的には新月と呼ばれ、細く見える三日月、半分見える半月、そして地球側全部が見える満月などの呼び名が一般的に使われています。

俳句の世界では単に「月」と言うと秋全体にかかる季語になります。旧暦では7月から9月が季節としては秋で、特に旧暦8月(仲秋)の月が最も美しく見えると考えられて重視されてきました。これは新暦では9月上旬から10月上旬にあたります。

旧暦8月初め、仲秋の名月に向かって真っ黒な状態の新月を「初月」あるいは「朔日(ついたち)ごろの月」と呼びます。

#1 街灯に目を細める初月夜

月明かりがまったく無いので、街灯が妙に眩しいという感じを詠みました。翌日になると、右半分にほんの少し輪郭が見えてきて、「二日月」あるいは「繊月(せんげつ)」と呼ばれます。

#2 二日月一本釣りの糸垂れる

細く見える円弧を釣り針に例えてみました。3日目になると、やっと視認できるようになり「三日月」となります。ここで、混乱するのは、季語ではこの月を「新月」と呼ぶところ。「眉書月」、「若月」、「月の剣」などの表現もあります。

#3 三日月や叶う願いは二三寸

月に向かって願い事をするというのはよくある話ですが、まだまだ見えている部分がわずかなので、小さなことしか叶わないという内容。続いて「四日月」、「五日月」というのもありますが、違いが出しにくい。7~8日になると、右半分が見える「半月」となり、見えるところが増えて来たので「上り月」、「上弦の月」、あるいは「(上の)弓張月」とも言います。

#4 体重計無慈悲な数字上り月

#5 半月よりこぼれ落ちし星雫

もう違いを表現するのが辛くなってきました。どんどん体重が増えて、これ以上にはなりたくないという数字の半分くらいになってきた。気を取り直して、月のお椀を半分傾けたので、中の星の雫が零れ落ちてしまったという感じ。十日になると、半月からさらに左側に膨らんできて「十日月」になります。

#6 アンパンや焼いて膨らむ十日月

タコ焼きでもよかったんですが、アンパンの方が少しはましかなくらいのものです。そして14日になると、かなり満月に近づいてきますが、いよいよ明日を楽しみにしているという意味で「待宵」です。「十四夜月」、「小望月」ともいいます。

#7 待宵の並べた団子一つ減り

前の晩から月見のために用意していた団子が、気が付いたら一個減っている。誰かが味見で食べたな、というだけ。そして、いよいよ満月になるわけで、単に「名月」と言えばこの日に特化した表現。「十五夜」、「中秋節」、「望月」、「芋名月」、「今宵の月」、「三五夜」、「端正の月」、「良夜」などいろいろ。

#8 名月や偉大な一歩静かなり

せっかくの名月なのにたいしたことを思いつかなかったんですが、一番たくさん月の表面が見えているにもかかわらず、初めて月面着陸を成功させたアポロ11号の着陸地点は裏側の静かの海と呼ばれる場所で見えないんですよね。人類にとって偉大な一歩は、音のしない静かなものでした。

旧暦8月15日が、必ずしも天気が良いとは限らない。残念ながら、雲に覆わてしまい見えないという場合は「無月」、「月の雲」と呼び、さらに雨まで降っていると「雨月」、「月の雨」になります。

#9 幻に振り回されし雨月かな

#10 風神も雷神に下りし無月かな

上田秋成が著したとされる江戸時代の読本「雨月物語」は、1953年に映画化され溝口健二監督の代表作であり、世界からもトップ10にはいる名作映画と評価されています。幻に翻弄される主人公のことを詠みました。もう一つは、風神と雷神はお互いを補完する対等の立場だと思いますが、風神の力が弱くて雲を吹き飛ばせなかったので、月が隠れてしまいましたという感じ。