基本的に俳句の世界では「月」と言えば秋。空気が澄んでより美しく見えるということですが、月は1年中空にあるので、他の季節でも月を題材にしたくなることはあります。そこで、秋以外の季節の月関連季語を集めてみました。
まずは春。この時期の満月は、やや赤みがかって、にじんだような重たい感じに見えることが多くなり、「春の月」、「春月夜」、「春満月」などの季語があります。
#37 薄紅のゆるり舞い散る春月夜
「薄紅」は、まぁ、桜ですかね。もしかしたら、梅とか桃とかでもいいんですが、月明かりに照らされてゆったりと舞う感じにしてみました。
ぼんやりとして不明瞭な状態を「朧(おぼろ)」と言い、主として雲、霞、霧などの天文現象に使われます。朧にぼやけた月を「朧月」、あるいは「淡月」です。そのような夜は「朧月夜」で、唱歌としてもよく知られた言葉です。月明かりも弱まります。
#38 朧月人の歩みも霞みけり
#39 朧夜のサティに睡魔指もつれ
朧月夜にピアノの練習。課題曲はエリック・サティの「ジムノペデイ」だったりすると、頭の中にも霞がかかってきて睡魔に襲われるかもとれません。
夏になると、夜が短いので月を眺めるチャンスは減りそうです。ただ、月の白く静かに光る様子は、一服の清涼剤と考える人が多かったようです。季語としては、「夏の月」、「月涼し」があります。また、月明かりで地面が白く見えて霜が降りたようだということで、「夏の霜」という言葉もあります。
#40 静まりて天幕照らす夏の月
#41 白玉にこし餡からみ月涼し
#42 夏の霜節電しよう野菜室
夏といえばキャンプ。都会よりも月はきれいに見えて、皆が寝静まったキャンプ場で、テントを白く照らしています。後は苦し紛れの句ですが、夏に霜というと冷蔵庫しか思いつきませんでした。
#43 びちょびちょとびちょりの間梅雨の月
梅雨の時期になって雨天が続き、雨と雨の間に一瞬の雲の切れ目に月が見えると、何か嬉しくなる。とは言ってもじめじめした空気は、必ずしも爽やかとは言い難い。
冬は、寒々と冴えた月というイメージ。「冬の月」、「寒月」、「月冴ゆる」、「月氷る」などの季語があります。
#44 筮持つ易者の震え冬の月
#45 寒月や手套はずせず懐中に
#46 冴月に吐く息曇る眼鏡かな
筮(めどき)は占いで易者が使う筮竹(ぜいちく)のこと。寒さのせいか、それとも何か物凄い占い結果が出たせいなのか、易者の手が震えている。占ってもらう側としては、ちょっと不安になりますね。寒すぎて手袋をつけたままポケットから手を出せないし、吐息で眼鏡が曇って前も見えません。
季節変われど月は月。空を見上げたら月があるという光景は、一年中それなりに人の心情を揺り動かすもの。いつでも、月の変化を敏感に感じられるようになっていたいものです。