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2022年10月15日土曜日

俳句の鑑賞 28 梅沢富美男


夏井いつき先生が辛口の選評をすることで俳句の裾野を広げた、人気テレビ番組「プレバト!!」で、俳句コーナーの初期から登場しているのが大衆演劇の梅沢富美男です。

夏井先生からは「おっちゃん」と呼ばれ、とぼけた敵役として登場していますが、みるみる俳句の腕が上達し、今や番組内で「永世名人」の称号を得て活躍しています。剣劇一座の座長として、日本中を渡り歩き、和の風物に親しむ機会が多かったことが句作りにも役立っていることと思います。

1939年生まれで、現在、71歳になりますが、1歳7か月で初舞台で、芸歴はほぼ70年というからすごい。女形で人気が出て「下町の玉三郎」という愛称で親しまれ、1982年には歌手として「夢芝居」が大ヒットしました。


頬紅き少女の髪に六つの花 梅沢富美男

「六つの花」は、雪の結晶をあらわす冬の季語。初登場で添削無しの「才能有り」と評価された句。兼題は「夜桜と東京タワー」でした。頬(紅)から視点を後ろにずらすと髪(黒)にたどりつき、そこに雪(白)が付いているのに目が止まるという、近景のみに関わらず静かなカメラワークと色彩の変化が描写されています。なかなか色恋に長けた人でないと詠めないと思います。

乙女摘む一芯二葉夏は来ぬ 梅沢富美男

兼題は「茶畑と富士山」、季語は「夏来る」です。「一芯二葉(いっしんによう)」は茶の木の先端部分の様子で、まだ柔らかさがある新芽の部分。新茶と呼ぶのは、この部分だけを摘んで作られます。姉さんかぶりの紺絣の・・・おばちゃんではなく乙女とするところがロマンチストの一端かと。

「来ぬ」はカ行変格活用の「来(く)」で、「き」と読めば連用形、「こ」と読めば未然形です。助動詞の「ぬ」は未然形と接続すると打ち消しになり「来ない」という意味になりますが、連用形と接続すると完了を意味して「来た」になる。当然、ここは「きぬ」と読みます。文語を知らないと間違いそうですし、「一芯二葉」のような特殊な言葉が出てくるところは教養の高さがわかります。

廃村のポストに小鳥来て夜明け 梅沢富美男

兼題は「郵便ポスト」、季語は晩秋に渡り鳥が飛来する「小鳥来る」。東日本大震災後に東北の人が住めなくなった村を訪れた時に、郵便ポストに巣をかまえた小鳥を見つけたというもの。中下が句またがりですが、最後の「夜明け」の3音ですぱっと切り落としことが、かえって静かな冷え冷えとした空気感の余韻を残すことに成功しているようです。

花束の出来る工程春深し 梅沢富美男

番組に登場して6年4か月で、ついに永世名人に昇格した句。兼題は「春の花屋さん」、季語は「春深し」で花が散り晩春に入った頃を意味します。全体に具体的な記述が無いままに、映像をもたない季語で完結させたことは、季語の持つ力を信じ切っていると夏井先生から評価されました。具体性が無くても、人それぞれが、自分の中でしっかりとイメージすることができるのがすごい。

百物語最後の鏡に映る物 梅沢富美男

兼題は「只今のお待ち人数」です。夏の季語「百物語」は、怪談を百語り終えると物の怪が現れると言われています。ここでは、何人かが集まり順に怖い話をして、話し終えるたびにろうそくを消していき鏡で自分の顔を見るというルール。最後のろうそくを消したら真っ暗になるはずですが、そこに何かが映るかもしれないと想像させるところが良さそうです。

「プレバト!!」で芸能人が詠んだ句を、夏井先生の評も含めて、詳細に聞き書きしたブログを続けているプロキオン氏のサイトを参照させていただきました。テレビでは掛け捨てになってしまうところを、このような形でまとめられていることは大変な労力だと思います。