2022年10月14日金曜日
俳句の勉強 51 音便のいろいろ
頭が痛くなる文語文法シリーズです。今回は、動詞の音便(おんびん)の話。
毎度のことながら、そもそも音便って何? 多分、古文の授業で聞いているとは思いますが、まったく記憶にない(木村先生ごめんなさい)。
発音上の便宜から、本来の活用にない音に変化する現象を音便と呼びます。例えば「花が咲いて・・・」の場合、本来なら「花が咲きて・・・」なんですが、「き」を「い」に置き換えて使うのが一般的になっています。
動詞の音便は、1. イ音便、2. ウ音便、3. 撥音便(ンに変化)、4. 促音便(ッに変化)の4種類で、これはもう覚えるしかない。原則は、
カ行・ガ行の四段動詞はイ音便
ハ行の四段動詞はウ音便
バ行・マ行の四段動詞、ナ変動詞は撥音便
タ行・ハ行・ラ行の四段動詞、ラ変動詞は促音便
音便を使うか使わないかは自由ですので、声に出して読んだ時の調子によって選択してかまいません。
というだけのことなんですが、具体的な例をみましょう。
霧吹いて螢籠より火の雫 鷹羽狩行
籠の中の蛍に向かって霧を吹いたら、蛍の光によってまるで火の粉が散ったようだということ。「吹いて」がイ音便です。本来は「吹きて」になるところですが、音便を使うと調子が柔らかくなってこの句では合っているように思います。
注意しないといけないのは、この場合は音便のイなので、旧字の「ゐ」を使ってはいけないということ。ついつい文語を意識しすぎると、やってしまいそうな間違いです。
もの言うて歯が美しや桃の花 森澄雄
話すと美しい歯が見えるのは、おそらく桃の花ように艶やかなお嬢さんなんでしょうか。ここでは、本来なら「言ひて」ですが、ウ音便が使われて「言うて」に変化。これも、音便を使った方が柔らかい印象を与えます。
飛魚とんで玄海の紺したたらす 片山由美子
玄界灘では、秋になると五島列島を中心にトビウオ漁が盛んです。海から飛び出したトビウオが、深い紺色の海水を滴らすというダイナミックな映像です。「飛んで」が、本来は「飛びて」となるところを撥音便に変化しています。
枝打って斜めに飛びし実梅かな 岸本尚毅
枝をはたいたら、梅の実が斜めに飛んで行ったようです。ここでは「打ちて」となるべきところを、促音便を使い「打って」になりました。「ッ」の方が、実がパッと飛んだ感じが出ますね。
ためらひつ日記を買ってしまひけり 鈴木良戈
年末が近づくと来年の日記をつけるために新しいものを買うわけですが、書き続けられるか自信があれませんということ。ここでは「買って」が「買ふ」の促音便になっています。この動詞はウ音便もあって「買うて」も正解。連用形の「買ひ」に助詞の「て」をつなげて「買ひて」という使い方もあります。
あー、また何だかややっこしくてわからなくなってきました。