2022年12月7日水曜日

俳句の勉強 62 季節感の無い季語

季節を表す語だから季語なんですけど、中には季節感というものがあまり感じられないものもあったりします。こうなると、季語を使わずに残りの部分でその季節っぽい雰囲気を出したくなるので、えらく難しい挑戦になってしまいます。

特に食べ物がそう。何しろ、栽培方法と保存方法が確立して、運送の手段も早くなり、季節限定という食材は少なくなりました。夏でもみかんを食べることができるご時世ですから、こと食べ物に関しては季節感は薄れてしまいました。

例えば、晩春の季語である「山葵漬(わさびづけ)」などは、年がら年中スーパーで売っています。本来は、4月から5月の若い山葵の葉や茎を酒粕に漬けこんだものですが、なんだったら冷凍が可能なので、ちびちびと一年中食べることも可能です。


白子干す低き廂に浪荒び
 福田蓼汀

殺生の目刺の藁を抜きにけり 川端茅舎

「白子」は「しらこ」ではなくて「しらす」のこと。カタクチイワシの稚魚を塩茹でして干したものが一般的で、地域によってはちりめんじゃことも呼ばれます。基本的には春全般に渡って使える季語なんですが、生しらすならともかく白子干ともなると、まぁ手に入らない時期は皆無。「廂」は「庇(ひさし)」と同じで、「荒び」は「すさび」と読みます。

少し成長した鰯を干したもの。藁を目に通して5尾ずつくらいをまとめて売っている。最近は藁ではなくてストローだったり、最初から藁やストローは抜いてあったりします。さらに大きめのものを鰓を通してまとめたものは頬刺と呼びます。これも、春の季語ですけど、春だからってことさら美味しいという実感はありません。

木の下に其梅漬ける小庭かな 尾崎紅葉

梅干して人は日陰にかくれけり 中村汀女

スーパーに青梅が並ぶには初夏のころ。その梅を塩漬けにして数日すると日向に干すということを繰り返して作るのが梅干し。昔は各家庭で自家製で用意することが普通だったのでしょうから、「梅干」が夏の季語というのは納得できる。ただ、現代ではほぼスーパーで買って来るので、梅干そのものは季節感はありません。季語として使うのは、あくまでも梅を干すという工程に限られるようです。

軽くのどうるほすビール欲しきとき 稲畑汀子

缶ビール旅のはじまる男たち 大井雅人

「ビール」夏の季語。これを夏の俳句でしか使えないとなると、かなり無理があります。確かに夏にかーっとジョッキを開けるというのは爽快なんですが、これはあくまでもビャホールとかビヤガーデンでの話。夏以外でも、まったく問題なくビールは飲みますので、季節限定はきつい。

ぴいと啼く尻声悲し夜の鹿 芭蕉

猪の荒肝を抜く風の音 宇多喜代子

これは何が季語? と思ってしまいますが、「鹿」と「猪」が秋の季語です。花札は秋が盛んだった・・・わけではなく、鹿は秋が交尾の季節で、猪は晩秋になると里に出てきてしばしば暴れるかららしい。うーん、かなり無理があるな。

サッカーの勝利の顔も拭かず立つ 福井貞子

声あげて吾を過ぐさっかー少年ら 大井氏悦子

確かにサッカーの高校生の大会は年末から年明けにかけて行われていますが、わざわざ冬限定でサッカーをするということはまずありません。冬の季語になったのは意味不明で、理解不能です。ラグビーなら多少そうかもと思えますけどね。

結局、時代の変遷が季節感を無くしているわけでしょうから、季語も進化させていかないと、ただの伝統芸能みたいになってしまいます。このあたりは、もう少し自由でもいいんじゃないかと思いますが、次代の歳時記に期待したいと思います。