雪女と言えば、怪奇譚に出てくる怖いものを想像します。白装束で吹雪の中から、もわーっと出てきて、口から超低温の域を吐き浴びると人は凍って死んでしまう・・・みたいな。
一方、雪男というのもありますが、こちらはファンタジー色はおとなしめ。人里から遠くヒマラヤあたりの雪山の奥深くに、毛むくじゃらの巨大獣風の類人猿という感じで、雪女よりは実在する期待が多め。
実は、どっちも季語になっているから驚きます。
とはいっても、「雪女」は気象・天文の季語で、「雪男」、「雪女郎」、「雪の精」、「雪坊主」などが傍題に上がっています。結局の所、雪によって迫って来る闇とか吹雪の風切り音とか、あるいは猛烈な寒さなどの過酷な様子全般を含むようなイメージを持っているようです。
季語としては、蕪村よりも前から使われていたようでけっこう古い物。昔の方が、雪の恐怖みたいなものは人々が切実に感じていたのでしょうけど、現代の首都圏に住んでいると、恐怖を感じるほどの雪の経験がない。
黒塚のまことこもれり雪女 其角
其角は芭蕉の直弟子で江戸時代の人ですから、本気で雪女、雪の精を信じていたのかもしれません。ホワイトアウトするような猛吹雪の中、おぼろげに見えている黒塚。そこが雪女の棲家なんだということか。
雪女旅人雪に埋もれけり 正岡子規
子規も雪女を信じていたのかな。冬の深山で、傘をかぶり蓑を羽織って雪をかき分け進む旅人を雪女が襲うイメージです。「八甲田山」の映画のシーンを思い出します。
かく行けば平屋は住まず雪女郎 阿波野青畝
そもそも平屋という作りは、豪雪地帯を想定していない家の構造ですから、雪女が出るはずもない。東北の方まで行けば、当然雪で一階から出入り出来ないこともありますね。
みちのくの雪深ければ雪女郎 山口青邨
わかりやすい句ですが、青畝は盛岡の出身ですから、おそらく明確な実体験から詠まれたもの。もしかしたら、雪女を見たことがあったりして・・・
雪女郎おそろし父の恋恐ろし 中村草田男
ファンタジーの雪女郎は平仮名で「おそろし」として、おそらく父親の「老いらくの恋」の方が「恐ろし」と漢字にしたことで現実感が強くなったように思います。
何にしても、少なくとも楽しいものを想像する季語ではありません。何とか、考えてみます。
雪女口紅の端吊り上がり
白いモノトーンの中から、雪女が姿を現し、真っ赤な口紅だけがくっきりと見えてくる。そして、にやっと笑ったのか、口角が上がると・・・あー怖い。
いっこうにまつ恋醒めぬ雪男
最後はダジャレ。まぁ、わかる人はわかる。
やっぱり、経験のない情景の季語は難しい。しかも、ファンタジー色のある気象のことですから、なおさらどう使っていいのか悩むしかありませんね。