2023年4月30日日曜日

Giuliano Carmignola / Giardini, J.C.Bach, C.F.Abel Un Italiano a Londra (2016)

ヨーロッパ大陸からイギリス、ロンドンに渡って活躍した作曲家はたくさんいたようで、とくに有名なのはドイツのヘンデル。ヘンデルはイギリスに帰化して、よく知られている「メサイア」は歌詞が英語です。ひと頃の日本に来るメジャー・リーガーみたいなもので、異国で一旗揚げようみたいなところがあったのかもしれません。

1716年にイタリア、トリノで生まれたフェリーチェ・ジャルディーニも、そんな活路を求めてイギリスに渡ったバロック期最後から古典期ーの過渡期の作曲家。バロックの特徴が、単旋律を中心とした音楽であったとするなら、古典期は和音が主役になって来る。

ジャルディーノはヴァイオリンの神童としてミラノで名を知られるようになり、30歳すぎからはヨーロッパ各地への演奏旅行を度々行い、最終的にイギリスに落ち着きます。この頃、同じくイギリスに定住し、王家にも気に入られアーベルと伴に定期演奏会で人気を博していたのがヨハン・クリスチャン・バッハでした。

ヨハン・クリスチャンは、J.S.バッハの末っ子でしたが、プロテスタントを捨てカトリックほ改宗、ドイツを捨てたことでバッハ家の裏切り者となりますが、イギリスでの人気と活躍、そして新しい音楽理論によって古典期の懸け橋となった重要な作曲家の一人と考えられています。

ジャルディーノはヨハン・クリスチャンの援護もあって、60代までイギリスでの成功をおさめますが、ナポリで劇場を運営するためにイギリスを離れたのが運の尽き。劇場はうまくいかず、70代後半にイギリスに戻るも忘れ去れた存在になっていました。さらにロシアに向かいますが、モスクワで80歳の生涯を終えます。

バロック・ヴァイオリンの大家、カルミニョーラがこのCDのテーマにしたのが、「ロンドンのイタリア人」ということで、ジャルディーノを中心に彼を支えたJ.C.バッハとアーベルを織り交ぜて、彼らの演奏会を再現することです。

一緒に演奏するのはAccademia dell'Annunciataという古楽器楽団ですが、監督を務めるチェンバロ奏者は、人気のIl Giardino Alminicoに所属しているリッカルド・ドニです。

独奏ヴァイオリンだけを聞くと、まだまだバロックの匂いが残る感じがしますが、伴奏は明らかに新しい。管楽器は登場せず、控えめに木管が入る程度で、編成はバロック期とあまり変わりがない弦楽器主体です。

基本的には典型的バロック音楽の、急緩急という三楽章形式が踏襲されていますが、全体の和声進行で伴奏が進みます。強いて言うなら軽めの、あるいは初学者のモーツァルトという言い方ををするとわかりやすい。

バロックから古典への過渡期の音楽ということですが、当時のイギリスの紳士淑女がこれらの新しい音楽を聞いて喝采したと思うと感慨深いです。