とりわけ、軍隊が丸ごと過去に戻ってしまうという大かがりな話題作も忘れられません。アメリカでは原子力空母が真珠湾攻撃の前日にタイム・スリップするカーク・ダグラス主演の「ファイナル・カウントダウン(1980)」が有名でしょう。
日本では、さらにもっと昔、戦国時代に自衛隊がタイム・スリップしてしまうというのが、半村良原作のこの映画。5本目の角川映画で、監督は、70~80年代の多くの人気テレビ・ドラマに携わった斎藤光正、脚本は鎌田敏夫、主演した千葉真一がアクション全体を統括して、当時としては俳優自ら危険なスタントをたくさんこなしたことでも有名です。
自衛隊の協力は取り付けられなかったため、すべての車両、武器、ユニフォームなどはレプリカであったり、アメリカ軍のものを流用したりしていますが、もともとフィクションですから、そこらをあまりとやかく言うのは野暮というものかもしれません。
演習中の自衛隊の1個中隊が、突然タイム・スリップしてしまいます。到着した途端に戦国武士の軍勢に攻撃され、彼らは否応なしに自分たちが戦国時代にいることを知るのです。トップの伊庭(千葉真一)は、やって来た長尾景虎、後の上杉謙信(夏木勲)に味方になるように勧められます。
自衛官の中には、精神的に病んでいく者、村で知り合った娘と逃げ出す者、さらには山賊化して村々を襲う者などが出てくるのです。景虎から「戦国の世で生きろ」と言われた伊庭は、共に天下を取る気持ちに傾き、京都に向かい川中島で武田信玄と対峙します。
近代兵器があっても、人海戦術と機転に勝る武田軍に苦しめられ、何とか信玄を倒すものの多くの犠牲を払い、やっとのことで京都の荒れ寺までたどり着きます。しかし、先に京に入った景虎は、御所に呼び出され大きな決断を迫られていたのでした。
一般にタイムスリップ物で過去に飛んでしまった場合、過去のいかなることにも介入してしまうことは未来を変えてしまうと考えられていて、人々と関わることなどご法度とされています。このあたりは「タイムパラドックス」というキーワードでいくらでも興味深い話が見つかります。
この映画では、伊庭が積極的にその時代に入り込んでしまうので、タイムパラドックスの問題は、ほぼ考えないで見るしかありませんが、単なるアクション映画、あるいは戦争映画として見るには相当頭の中で意識を改変していかないとついていけなくなりそうです。