イージス・システムはアメリカが開発した防空戦闘システムのことで、これを搭載した戦艦はイージス艦と呼ばれます。レーダーからミサイル発射までをコンピュータ制御して、目標の識別・判断・攻撃の流れが格段と迅速に行われるらしい。
原作は長大で、文庫でも500ページ以上ありますから、当然映画化に当たっては相当はしょれるところをはしょり、テーマを絞り込まないと収まるわけがない。
訓練航海に出発したイージス艦、いそかぜ。しかし、出航してすぐさま艦内に不穏な動きがあり、艦を熟知する先任伍長、仙谷(真田広之)は、副長の宮部(寺尾聡)から新人の如月(勝地涼)が亡国の工作員ヨンファ(中井貴一)の協力者で艦を爆破しようとしていると教えられます。
如月が機関室に籠って爆弾を仕掛けてたところに、仙谷は如月の知らないハッチから侵入し格闘になりますが、如月は防衛庁情報局(DAIS)の指令によって、ヨンファが持ち込んだ強力な化学兵器GUSOHを使わせないために動いていると話します。
仙谷が如月を確保した途端に、海上訓練指導隊として乗り込んでいたメンバーがなだれ込み二人とも拘束され、仙谷は如月の言うことが正しいことを確信したのです。
副長以下、幹部士官(吉田栄作、豊原功補、谷原章介など)は全員、危機意識のあまりにない日本国に幻滅し、ヨンファに協力しいそかぜを東京湾に進めて東京都各所に化学兵器を搭載したミサイルの照準を合わせ、政府が隠蔽してきた様々な危機を公表することを目的としていました。
政府は内閣総理大臣、梶本(原田芳雄)以下閣僚、防衛庁幹部が招集され、DAISの本部長、渥美(佐藤浩市)らが必死に情報収集にあたります。宮部の命令により、仙谷を含めた一般自衛官は退艦させられますが、仙谷は一人ひそかに艦に戻り孤独な闘いが始まりました。
・・・と、まあ、そんな感じのストーリーなんですが、自衛隊が全面協力して、本物のイージス艦で撮影が行われたそうで、なかなかリアリティがあるはずなんですが、実際のところせっかくのイージス艦なのに、全体が写るようなアングルはなく、ほとんどセットでいいんじゃないかという感じが寂しい。
艦内での仙谷・如月対亡国工作員という肉弾戦のアクションが中心なのでしょうがないと言えばそれまでですが、僚艦を先制攻撃で撃沈させてしまうような本来派手な場面も、レーダー上でシグナルが消えるだけという見せ方なので、何ともお粗末な印象です。
原作ではヨンファの義理の妹で強い絆で結ばれたジェンヒが、映画にも登場するのですが、あまりに唐突な登場で何故いるのか意味不明というところ。原作をかなり省略しているようなので、いなくてもいいように思いました。
宮部と下士官たちも、これだけのことをするならそれなりの覚悟があるだろうに、妙に自衛隊員の死者が出ることにびびっているのも情けない。誰も死なずに国を変えられるとか、本気で考えていたのでしょうか。
まぁ、そんなもやもやはありますが、冷徹な中井貴一、人間愛に溢れる真田広之、仙谷の人柄にしだいに引き込まれる勝地涼らの演技がなかなか素晴らしいので、何とか最後まで見続けることができます。
監督は阪本順治で、代表作は「大鹿村騒動記」、「北のカナリア」などがあります。国家として存在意義を失いつつある日本は、守る価値があるのだろうかというかなり硬派なテーマが根底にあるのですが、国に絶望した人たちの起こしたアクション映画以上にはなっていないようです。