2023年5月31日水曜日

ゴールデン・スランバー (2010)

今や人気俳優となった、堺雅人がブレイクのきっかけの一つになった映画。伊坂幸太郎原作の小説は、いろいろな賞を受賞しました。監督・脚本は中村義洋で、最近では珍しくテレビ出身ではありません。

クライム・サスペンスという位置づけになるかと思いますが、何か大きな権力の周到に仕組んだ罠に陥り、首相暗殺犯とされた青年が人との信頼だけを武器に逃げまくる話。

仙台に住む青柳雅春(堺雅人)は、以前、宅配業者の仕事をしていて、偶然に人気アイドル(貫地谷しほり)が襲われたのを助けました。ニュースによって顔が一般にも比較的知られる存在。学生時代の友人森田(吉岡秀隆)に久しぶりに呼び出され、首相の地元への凱旋パレードが行われる道路の脇道に停めた車の中で薬で眠らされてしまいます。

目を覚ますと、パレード中の首相がラジコンヘリによって爆殺されるのです。森田は「お前はオズワルドにされる。とにかく逃げろ」というのです。すぐさま近づいてきた警官がいきなり発砲し、青柳が車から転がり出た途端に車は爆発しました。

大学時代の仲間の一人、小野(劇団ひとり)のところに行くと、そこへの警察がやって来て、小野は暴行されます。青柳を連れ出した警視庁の佐々木(香川照之)はいくらでも証拠はあるから自首のチャンスをやると言いますが、ちょうどそのころ市内を賑わせていた通り魔のキルオ(濱田岳)に助けられます。

もう一人の大学時代の仲間で、一時は恋人同士だった樋口晴子(竹内結子)はニュースで事件を知りますが、訪ねてきた警察の様子も腑に落ちない。キルオは整形して青柳に似せた人物が、いろいろな防犯カメラにわざと映るようにしていたことから、その人物を突き止めますが相討ちになり絶命してしまいます。

たまたま知り合った入院患者の保土ヶ谷(柄本明)と晴子のお膳立てで、テレビ生中継をしている場所で投降することにしますが、中継は警察によって妨害され、たくさんの狙撃手が一斉に青柳に照準を合わせるのでした。

オズワルドは、ケネディ大統領暗殺犯のこと。周到な計画によって犯人に仕立て上げられた可能性は今でも議論になっています。青柳も、犯人として権力者の罠にはめられたのです。

はっきりしているのは、この陰謀を仕掛けた犯人を探し出すことがこの映画の目的ではありません。ある意味、青柳の敗北で映画は終了しますが、これは少しのコメディ・タッチの交えて、青春時代の思い出をたどりつつ、人を信頼することを大切さを描くことが主眼にある逃亡劇ということ。

また映画の中で繰り返し出てくるワードに「イメージ」というのがあります。青柳という人物はアイドルを助けた人物のイメージとして市民に定着している。警察が犯人だと発表すると、すべてのメディアは悪者のイメージのもとに報道をする。一見、唐突に登場する通り魔のキルオも、実物とだいぶ違う悪そうなイメージの人相書きが出回っていたりします。

一度作られたイメージからは、人はなかなか抜け出せないものなので、悪用されればどんどん深みにはまりますが、以前からその人となりを知る者とはしっかりとした信頼関係で結ばれる・・・いや、結ばれていたものですよね。