2023年5月28日日曜日

真夏のオリオン (2009)

終戦間際の南方海域での、日本軍潜水艦とアメリカ軍駆逐艦との緊迫した駆け引きが中心の戦争フィクション映画です。「死ぬために戦うのではなく、生きるために戦っている」ということをテーマにしています。

監督は「月とキャベツ」、「地下鉄に乗って」などの話題作の篠原哲雄。脚本は福井晴敏です。平成ガメラ・シリーズに携わった松本肇が特撮監督をしていて、4年前の「ローレライ」よりもはるかにリアルなCGを駆使しています。

イ-77潜水艦で出撃した倉本(玉木宏)は、航海長の中津(吹越満)、水雷長の田村(益岡徹)、機関長の桑田(吉田栄作)ら、信頼できる部下や、新任の軍医長の坪田(平岡祐太)、人間魚雷回天の搭乗員と共にアメリカ軍輸送船を効果的に打撃を与えていました。回天搭乗員は度々出撃を進言するのですが、倉本はその都度「もったいない」と言うだけで取り合いません。

しかし、しかし防衛線を作っていた僚艦3隻からの音信が途絶え、その中には倉本の親友、有沢(堂珍嘉邦)が艦長を務めるイ-81もいました。倉本は日本軍潜水艦を仕留めたアメリカの駆逐艦パーシバルとの戦いに挑むことになります。

パーシバルのスチュワート艦長は、弟が回天の攻撃で戦死したため、誇り高いはずの日本海軍が特攻兵器を使うことに感情的に許すことができず、イ-77を仕留める強い決意を持っていました。

パーシバルの爆雷攻撃で、深海で身動きができないイ-77でしたが、酸素が尽きようとしても、回天に搭載されていた圧縮酸素を転用して潜航を続けます。一進一退の攻防の末、ついにタンクを破損したイ-77は、耐圧深度を超える海底に着床してしまいます。

残る魚雷は1本のみ。一度浮上したら、二度と潜航できない状況の中、イ-77はついに最後の勝負に挑むのでした。

映画では、倉本艦長の孫、倉本いずみが戦いの最中にスチュワート艦長が拾い上げた祖母、有沢志津子が書いた楽譜の由来を知るために、イ-77の生還した乗組員(鈴木穂積)を訪ねる現代のプロローグから始まり、鈴木の回想として本編が始まる形になっています。

志津子の書いた「オリオン」という曲の楽譜には、「真夏のオリオンが目標となって無事に帰還して欲しい」という願いが込められた詩が添えられていて、倉本にお守りとして渡されていたもので、映画のタイトルの由来になっています。

いずみ役は名が知られるようになったばかりの北川景子で、祖母の倉本志津子(戦死した有沢の妹)と二役を演じます。かなり薄めのメイクで、すっぴんに近い北川景子が見れるというのもちょっと嬉しいかもしれません。

潜水艦対駆逐艦という構図は、すでに駆逐艦側が主役の「眼下の敵(1957)」という名作映画がありますので、多少二番煎じ的な所はありますが、潜水艦側に視点を持ってきたことで新鮮味があり、なかなか緊迫したリアルな映像表現が出来ているように思いました。

ただ、敵同士、正々堂々と戦うみたいな武士道というか騎士道みたいなところが、ちょっと甘い。現実の戦いの中で、簡単に相手を信じるみたいな成り行きには、かなり意図的なドラマ性を感じてしまいます。さぁ泣け、と言わんばかりのいずみが登場するプロローグとエピローグについては賛否両論があるかもしれません。

とは言え、今風の玉木宏の髪型を除けば、戦争フィクションの映画としては、なかなか良く出来たものだと思います。