シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロのような小説の中の有名な探偵がいますが、アメリカではフィリップ・マーロウが最も知られており、その生みの親がチャンドラーです。チャンドラーが遺した8つの長編は、いずれもマーロウが登場し、ハードボイルドの探偵として活躍しています。
最初にマーロウが登場したのが、1939年の「大いなる眠り (The Big Sleep)」で、この映画はこれを原作としています。映画の原題はそのままですが、邦題は終盤の台詞から、ハードボイルド感が強まる命令形にしてインパクトをもたらしました。監督はジョン・ウェインとの西部劇が有名なハワード・ホークス。フィルム・ノワールとしては、最も人気がある金字塔的な作品と言えそうです。
ロサンゼルスで、私立探偵を営むフィリップ・マーロウ(ハンフリー・ボガート)は、スターンウッド将軍(チャールズ・ワルドロン)に招かれます。将軍には姉のヴィヴィアン(ローレン・バコール)と妹のカルメン(マーサ・ヴィッカーズ)という二人の娘がいて、二人とも奔放な美人でしたたか者。
将軍は、古本屋のガイガーがカルメンを度々恐喝しているようだと話し解決してくれるように頼みます。将軍が以前用心棒として頼りにしていたリーガンは急に姿を消し、ヴィヴィアンによれば運転手もいなくなったらしい。
マーロウは店を見張り、車で出かけるガイガーをつけます。一軒家に入ると、続けてカルメンが一人で車を運転してきて、同じ家に入っていきました。しばらくして、うとうとしていたマーロウは女性の悲鳴と銃声に目を覚まし家に飛び込みます。
床には射殺されたガイガー。そのそばでチャイナドレス姿で酩酊状態のカルメン。そのカルメンを撮影するための隠しカメラがあり、フィルムは抜き取られていました。裏からは2台の車が走り去っていく。
マーロウはカルメンを家に連れ帰り、ヴィヴィアンに黙っているように言います。自分の車を取りに戻ると、ガイガーの遺体は消えていました。その頃波止場では、スターンウッド邸の車と共に運転手の遺体が引き上げられていました。
この映画の2年前にホークス監督の「脱出」で共演したボガートとバコールは、それをきつかけに結婚したので、この映画の時点では夫婦共演となりました。この後も度々共演しており、バコールは食道がんで57歳で死去したボガートを最後まで支え続けました。
謎が謎を呼ぶ複雑な展開で、ストーリーを追うのは一筋縄ではいきません。もともと原作が込み入っているせいらしいのですが、映画では台詞がやたらと多く、気を抜いていると訳が分からなくなります。
とは言え、犯罪を解明する推理小説ですから、謎が無ければ始まらない。しかし、ハードボイルドの特徴である、犯罪そのものより関係者の動きが重視され、危険な状況でもクールに決めて見せる探偵と、ちょっと危険な香りが漂う女性との絡みが見事に描かれています。
渋めの中年(この映画撮影の時、ボガートは45歳)というのははまっていますが、原作のマーロウは長身という設定で、ボガートは身長173cmでアメリカ人としては高くはない。そこで、度々身長が低いことをとぼけた台詞としてうまく利用しているところは良いセンスです。
渋めの中年(この映画撮影の時、ボガートは45歳)というのははまっていますが、原作のマーロウは長身という設定で、ボガートは身長173cmでアメリカ人としては高くはない。そこで、度々身長が低いことをとぼけた台詞としてうまく利用しているところは良いセンスです。