2023年12月15日金曜日

第三の男 (1949)

見たことは無くても、タイトルを聞いたことが無いという方はまずいないくらい有名な映画。映画のオールタイム・ランキングではいまだに必ず上位に登場します。

監督はイギリスのキャロル・リード。音楽はアントン・カラスのチター演奏で、テーマ曲も大変よく知られています。チターはオーストリア、スイス付近で使われる琴とギターを混ぜ合わせたような35本ほどの弦を弾く楽器です。脚本はグレアム・グリーンで、映画公開後にノベライズを出版しています。

製作は、ハリウッドで当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあったデビッド・O・セルズニックで、クライム・サスペンスなのですが、舞台をウィーンにしていることもあってか、フィルム・ノワールという枠を超えてしまった作品。しかし、白黒の陰影を強調した映像は特徴的です。アカデミー賞では撮影賞、カンヌ映画祭ではグランプリを獲得しました。

大戦後、ウィーンは米英仏露による共同統治が行われていました。そこへ売れない西部劇作家のホリー・マーチンス(ジョゼフ・コットン)が、友人のハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)の招待でやってきます。しかし、前日にライムは自動車事故で亡くなっていて、葬儀に参加していたキャロウェイ少佐(トレヴァー・ハワード)から、ライムは殺しも辞さない密売人だと教えられます。

ホリーはライムの友人だというクルツ男爵から連絡を受け会うと、男爵は事故の時一緒にいて、その時の模様を話してくれました。もう一人、ルーマニア人のポペスコという男も一緒にいて、ホリーの世話を頼むと言われたと話すのでした。また、事故を起こしたのはライムのお抱え運転手であり、葬儀の時にいた女性、アンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)はライムの恋人だと聞かされます。

ライムの死を不審に思うホリーはアンナと、事故を目撃したライムのアパートの管理人に話を聞くと、事故直後にライムを道の端に移動させたのはクルツとポペスコ、そしてもう一人の謎の男だと言いますが関わるのは御免だと言います。アンナがアパートに戻ると警察が家宅捜査をしていて、アンナのパスポートを没収し連行するのです。

古い映画で、名作の誉れが高いので、もう語り尽された感がありますので、いまさらここでとやかく言ってもしょうがない。基本的には暗黒街の犯罪を扱っていて、名作だからといって難しいことはありません。ただし、ストーリーは多少入り組んでいて、一回ですーっと頭に入るかと言うとそうでもない。

そこらあたりは、フィルム・ノワールの特徴と言えばそれまで。基本的には悪女が出てきて主人公を翻弄するか、そうでなければ男の友情と裏切りというのが、フィルム・ノワールの真骨頂ですから、いずれにしてもそう簡単にストーリーが組み立てられているわけではないということです。

今となってはよくあるシーンですが、観覧車を使ったスリルとか、地下水道を走り回るサスペンスとか、並木道を女が一人で歩く俯瞰のカメラワークなどは、この映画で使われたのが最初ですから、いずれもまさに元祖名シーンのオンパレードです。

特に注目したいのは、セット撮影の屋内のシーンと違い、屋外は戦後すぐのウィーンの様子をとらえており、記録としても大変貴重なものになっています。