2023年12月4日月曜日

湖中の女 (1947)

タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない

これ、どこかで一度は聞いたことがあると思いますが、実はこれフィリップ・マーロウの言葉。マーロウはレイモンド・チャンドラーが創り出した小説の中のハードボイルド探偵。この台詞は、チャンドラーの遺作となった「プレイバック」の中で語られたもの。

原文は「If I wasn't hard, I Wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I won't deserve to be alive」というもので、まさにマーロウの生き方を体現しているんですが、数ある作品の中で、残念ながら「プレイバック」だけは映画化されていません。

この作品はマーロウ物としては4作目の長編が原作で、本作でマーロウを演じるのはロバート・モンゴメリーという主として戦前に活躍した俳優で、実は監督も兼任している。その秘密は、原作の小説がマーロウの一人称により物語が語られているため、それを映像化したということ。

つまり、本編はマーロウの見ている視点で画面が構成され、直接本人が映るのはイントロダクションとエンディング、そしてたまに鏡に映る姿だけという斬新な構成。当然、通常行なわれるカット割りなどは、同じ場面ではまったくありません。マーロウが下を向くとカメラは下を向き、横を見ればカメラも横に向くという感じ。

ちなみにロバート・モンゴメリーは知らないという場合、「奥様は魔女」のサマンサを演じたエリザベス・モンゴメリーのお父さんと言うと親しみが出てくるかもしれません。

私立探偵フィリップ・マーロウ(ロバート・モンゴメリー)は、探偵稼業だけではクリスマスを迎えても懐具合は寂しい。自分の体験した事件を題材にした小説をデレス・キングスビー(レオン・エイムズ)の経営する雑誌社に送ったところ、編集主任のアドリエンヌ・フロムセット(オードリー・トッター)から来社するよう手紙が来ます。

マーロウが出向くと、アドリエンヌはデレスの妻、クリスタルの行方を探すように依頼されます。アドリエンヌはデレスを自分のものにするため、クリスタルに離婚届を書かせたかったのです。アドリエンヌは、クリスタルはクリス・レヴァリーという男と一緒らしいというので、マーロウはクリスに合うため彼の住むベイシティに向かいます。

しかし、クリスに殴り倒され、気がつくとマーロウは現地の警察署の牢の中。警察では高圧的な景観の取り調べを受け何とか釈放されます。アドリエンヌに報告に戻ると、デレスの別荘があるリトル・フォーン湖で、管理人の妻、ミリュエル・チェスの溺死体が発見されたと知らせがあります。

アドリエンヌは湖に行くように言いますが、マーロウは無視してあらためてクリスの家に行くと、クリスは射殺されていました。近くにはA・Fのイニシャルの入ったハンカチがあり、そのことを伝えるとアドリエンヌからは調査契約の破棄すると言われます。ベイシティ警察にクリスの件を届け出ると、再び異常に高圧的な警官によって拘束されるのでした。

「湖中の女」というタイトルの割には、いかにも映画的な湖に遺体が沈んでいるようなシーンはなく、 あくまでもマーロウが自分の目で見えるものだけに特化した演出になっています。当時としては、画期的な演出ですが、やはりカット割りによる緊迫感が無く、何となくだらだらと進行する雰囲気はいただけない。

もちろん、マーローの姿を鏡に映したり、パンチが飛んできて殴られ画面が暗くなるなどの工夫はいろいろあるんですが、マーロウ視点でカメラが動き回るのは落ち着きません。この手の実験的手法は、はっきり言って作っている人は作っている時には面白いと思っているのですが、ヒッチコックの「ロープ(リアルタイム・ワンシーン撮影)」や「救命艇(すべて小船の中だけ)」でも、結局ヒッチコックは後で振り返って後悔しています。

やはり、フィリップ・マーロウというハードボイルド探偵が、活躍する姿が直接的に映像として見れないと、映画としての楽しみは半減してしまうと言うのが結論のようです。