もともとはウッディ・アレンが1969年に書き下ろした舞台劇が原作で、アレン自ら脚本を書き映画化したもの。ハンフリー・ボガートに憧れる不器用な男を主人公にしたコメディ。
アレンはユダヤ系の生粋のニューヨーカーで、神経質なロマンチストというイメージですが、すでに監督としても評価されていたにもかかわらず、ここでは名匠ハーバート・ロスに監督は任せています。とは言え、アレンのカラーを重視したのか、映画はアレンのに匂いがプンプンする出来です。
アラン(ウッディ・アレン)は、映画評論家。ハンフリー・ボガートに憧れ、「カサブランカ」をしょっちゅう見ては、ボギー(ハンフリー・ボガートの愛称)と自分を比較しています。時にはボギーの幻(ジェリー・レイシー )が登場して、ああしろこうしろと言い出す。行動派の妻ナンシーは、そんなアランに愛想をつかして離婚。
友人のディック(トニー・ロバーツ)と妻のリンダ(ダイアン・キートン)は、そんなアランを心配して、いろいろと女性を紹介しようとしてくれまが、どんな女性でもかっこつけてしまい空回りするアランなので、まったく話が進展しない。
ディックは仕事人間で、絶えず自分の居場所の電話番号を会社に事細かく連絡するような男。リンダはアランと一緒にいると、次第に心が休まるのを感じます。アランもリンダの前だと、自分を飾らず素直になれるのです。
ボギーの幻もアランをたきつけ、アランは次第にリンダに惚れてしまった自分に混乱します。ボギーの幻はディック主張中にやったきたリンダをモノにしろとアランを煽りまくるのですが、離婚した妻の幻が登場して「彼をほっといて」と言ってボギーの幻を撃ち殺してしまいます。
しかし、アランはドタバタの混乱の中でリンダと夜を共にしてしまうのです。しかししだいにアランは罪の意識にさいなまれ、ディックもリンダに男ができたかもしれないとアランに相談します。再び現れたボギーの幻は、今度は粋な別れ方を指南するのでした。
基本的に「カサブランカ」のパロディ的な要素が強く、冒頭のタイトル、スタッフロールの間の約5分間はカサブランカのラストシーンがそのまま使われています。当然タイトル(Play it Again,Sam)も「カサブランカ」の中で、イングリッド・バーグマンの台詞、「Play it once, Sam」からとられたもの。
結末も予想通り「カサブランカ」に準じていて、オチは最初から想像できてしまうわけですが、そこへ持っていくための展開がうまく、さすがアレンという出来になっています。
登場するボギーの幻は、終始ボルサリーノ帽にトレンチ・コートというボガートの代名詞のようないで立ち。演じるジェリー・レイシーは、他には目立った活躍はしていない俳優ですが、声色は似ている印象です。彼を含めてダイアン・キートン、トニー・ロバーツは舞台でも同じ役を演じました。
70年代はベトナム戦争の影響もあってアメリカが病んでいた時代と言えますが、アレンの映画の登場人物は、いずれも精神科医を主治医に持ち、アスピリンをはじめとするさまざまな薬漬けになっているのがステータスのように描かれます。アランはまさにそんな一人で、ウッディ・アレンそのものを地で行くような役柄なのかもしれません。