2023年10月12日木曜日

護られなかった者たちへ (2021)

大多数の日本人にとって、まだまだ過去の記憶となっていない東日本大震災。被災10年を超えて、映画としても題材に選ばれることが出てきました。この映画もその一つ。未曾有の災害によって、人生を大きく狂わせられたわけで、原作は中山千里著の2016~2017年に新聞連載された推理小説。監督は「64」、「楽園」などの社会派推理映画で活躍する瀬々敬久。脚本は「ゴールデンスランバー」の林民夫です。

宮城県警の笘篠(阿部寛)は、震災の津波によって妻と一人息子を失いました。当時、避難所や遺体安置所を駆け回ったのですが、その時、天涯孤独の被災者、利根(佐藤健)や、親を失った少女、かんちゃんらも同じ時間・場所を経験していました。

家が何とか無事だった一人住まいの年老いた遠島けい(倍賞美津子)は、そんな二人を家に泊まらせ食事の世話などをしたのです。しかし、満足に年金も受け取れないけいの生活はひっ迫しており、二人は生活保護を受けるよう説得し役所に連れて行くのです。

しかし、役所ではあまり親身になってくれる感じではなく、結局けいは申請を取り下げてしまうのです。しばらくして、二人が家を訪ねるとけいは餓死していました。利根は怒りに任せ役所に放火し、逮捕・収監されたのです。

8年後、利根は出所しますが、同時に過去に福祉事務所で働いていた三雲(永山瑛太)、城之内(緒形直人)が相次いで緊縛され餓死させられた遺体が発見されます。ふたりはけいの生活保護申請に関係していた人物でした。

笘篠は生活保護がらみの怨恨が動機にあるとみて、現在の事務所職員の円山幹子(清原果耶)に生活保護にまつわるトラブルなどの話を聞くのです。捜査線上に利根の名前が浮上し、当時の関係職員で現在は国会議員をしている上崎(吉岡秀隆)も狙われると考え警備していると、講演会に利根が飛び出してきたため逮捕しました。

利根は自分の犯行だと自供しますが、その時上崎が行方不明になったという連絡が入るのでした。心当たりがあると言う利根を連れて、笘篠はかつて遠島けいが住んでいた廃屋に向かうのでした。

映画は過去と現在のシーンがランダムに登場するのでわかりにくいところはあるのですが、ちょっと見ていると利根の服装や髭の有無などで判別がつくので心配はありません。笘篠の震災から引きづる後悔は、本筋とは関係はありません。しかし、利根の経験とうまくリンクさせることで、ストーリーに奥深さを生み出すことに成功しています。

多くの死者・行方不明者が出て、物的損害については多くのニュースなどで知られましたが、その結果として持続的な被災者らの心的外傷や経済問題についてはあまり知られていません。しかし、この映画はフィクションとはいえ、現実的に起こりえた深刻な問題を考える機会を与えてくれます。

特に生活保護という問題は、震災とは別に様々な問題をはらんでいることが示されます。不正受給という事例はいろいろなパターンがあり、この映画のような公的機関側がはからずも受給を拒絶するケースはあくまでもフィクション。しかし、多忙を極める震災後の混乱の中では、まったく無かったとは想像しにくく、深刻な問題へと発展する可能性はあるかもしれません。

原作からはエピソードを絞り込んでいるようですが、映画の展開としては必要なところはしっかり残して簡略化され理解しやすくなったように思います。明るいところはない、絶えず重苦しさがつきまとう内容ですが、映画としてはうまく作られた作品といえそうです。