2023年10月18日水曜日

鳩の撃退法 (2021)

佐藤正午原作、最新作「アナログ」で注目されるタカハタ秀太が監督しました。脚本は「るろうに剣心」にも参加した藤井清美です。

主人公がリアルタイムに進行している身に起きた事件を、小説として書いてその内容を編集者に話す形式で進行するため、やや複雑な構成が難解な印象を与える作品。

北陸の一地方都市で、デリヘル嬢の送り迎えをしている津田伸一(藤原竜也)は、かつて直木賞をとったことがある小説家でした。ある日、津田は水商売をする幸地秀吉(風間俊介)と出会います、秀吉は、その日、妻に妊娠を告げられ自分のの子では無いと確信していました。そして、翌日秀吉と妻の奈々美は行方不明になってしまいます。

津田が世話になっている古書店の老人(ミッキー・カーティス)が亡くなり、他に身寄りがなかったため津田に遺品のスーツケースが渡されます。中には3003万円が入っていて、津田はバラになっていた3万円を持ち歩き、まえだ理容店でそのうちの一枚を使う。ところが、それが偽札であることが判明しますが、店主の前田(リリー・フランキー)は、警察には津田のことを話しませんでした。

裏情報に詳しいデリヘルの社長(岩松了)は、この偽札には街の裏社会を一手に牛耳る倉田健次郎(豊川悦司)が絡んでいて、津田にも手が回っているから東京に逃げるように忠告します。津田は残りの3000万円を倉田の手下に渡し、前田の知り合いの高円寺のバーで働きながら、編集者の鳥飼(土屋太鳳)にこれまでの経過を小説にしたものを少しづつ見せるのでした。

実はストーリーの進行は時系列の逆に示されていくため、最初のうちはいったい何だろうと謎が謎を呼ぶ形になっています。ここを我慢しきれれば、終盤は一気に時系列に真実が明らかにされていくところが心地よい。ただし、津田の小説では結末はおそらく読者が望むような締めくくりとしたようですが、本当のところは見たものの想像に任せる終わり方です。

藤原竜也の軽くて腕力には自信がない演技ははまりもので、さすがというところでしょうか。ところどころで津田に「沼本(ぬまもと)」と呼ばれ「ぬもとです」と切り返すウェイトレスの西野七瀬が、意外と良いアクセントになっている。

いわゆるクライム・アクションではなく、手品のトリックように偽札が巡りまわっていく様子と一つ歯車が狂うことで人の生きざまが変わってしまうことを、人間ドラマ的に楽しめる作品と言えそうです。