2023年10月9日月曜日

THE GUILTY/ギルティ (2018)

音だけが頼りという、かなり風変わりなデンマークのサスペンス映画。グスタフ・モーラー監督・脚本、主演はヤコブ・セーダーグレンという方ですが、情報はほとんどないのでよくわかりません。アカデミー外国語映画賞にノミネートされ、すぐさまハリウッドでもジェイク・ギレンホール主演でリメイクされました。

警察官のアスガー・ホルムは、今は緊急通報を受ける電話番の担当。おなじみのヤク中からの意味不明の電話の対応にうんざりしたり、娼婦にまんまとパソコンを盗まれた男の通報ににパトカーを手配したりするのが仕事。

次に入ってきた電話は、すこし勝手が違いました。興奮した女性からの電話で、登録情報から相手はイーベン・オスタゴーと判明。興奮して泣きながらですが、どうやら男に拉致されて車で移動中らしい。こどもにかけると嘘をついて電話をしている様子なので、アスガーはやっと白いバンに乗せられていることだけは聞き出せました。アスガーは指令室に連絡し、状況とGPS情報を伝えパトカーを急行させるように依頼します。

イーベンの自宅の電話番号も判明したので電話をすると、6歳の娘、マチルデが出ます。マチルデは母が元夫のミケルにナイフで脅され連れ出されたと話します。家には自分とまだ赤ちゃんの弟、オリバーだけだというので、アスガーは警察官を家に向かわせます。そして、ミケル・オスタゴーの情報を確認したアスガーは、仲間のラシッドにミケルの自宅に向かうように頼むのでした。

マチルダから誰かが来たとの電話が入ります。アスガーは、警察だから安心してと話す。アスガーは電話越しに、警察官が腹を切り裂かれて死んでいるオリバーを発見する音を耳にするのです。アスガーはイーベンに電話をかけると、イーベンはおそらく荷物室に押し込められた様子でした。

アスガーは手に触れたというレンガを持って、車が止まってミケルが扉を開けたらレンガで殴って飛び出しなさいと指示するのです。しかし興奮したイーベンは、オリバーのお腹の中に「ヘビ」がいて騒ぐので取り出してあげたと言い出します。呆然とするアスガー。

ラシッドから連絡が入り、ミケルの自宅にあった書類からイーベンが重度の精神障害があったことがわかり、GPS情報からミケルは精神疾患センターに向かっていると推察されました。アスガーはミケルの携帯に電話を掛けます。電話に出たミケルは、イーベンが逃げてしまい行方がわからないこと、今までいろいろなところに相談しても誰も助けてはくれなかったことを話します。しばらくして、イーベンから電話がかかってきました。

ビジネスライクに考えれば、緊急通報を受ける立場としてはアスガーの行為は越権行為であり、実際映画の中でもあちこちで顰蹙を買うことになる。ところどころに断片的に、アスガーが正当防衛とはいえ少年を射殺したことで裁判中であることが語られ、そのことで現場から配置換えされていたことがわかります。アスガーはその罪悪感に悩み、イーベンの電話を無視することができなかったわけで、それがアスガーの「ギルティ」に対する答えだったようです。

あらすじを書き出してみてわかるのは、通報室の同僚が数人いてわずかな会話はありますが、登場人物として映像に現れるのはほぼアスガーたった一人と言っていい。また舞台も通報室だけで、台詞のあるイーベン、ミケル、マチルダ、ラシッドらはすべて電話の音声だけという、ある意味かなり非映画的な状況です。

ストーリーの緊迫した展開で何とか見終わることができますが、もう少し映画としての工夫が欲しい印象は拭えません。このままだと、主人公の顔のアップが見放題の一幕物の舞台劇と変わらない。

ただ、独特の着眼点は十分に評価できるところですし、急がずにアスガーの状況に応じてにじみ出る感情の変化をうまく描き出しているところは、俳優の演技力と監督の演出力の賜物と言えます。少しずつタイトルの持つ意味が分かってくるところも悪くない。時間があれば、一度は見ておくべき映画の一つと言えそうです。