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2023年10月4日水曜日

ブラックボックス 音声分析捜査 (2021)

「ブラックボックス」という言葉がありますが、一般には中身がわからないようにしてある箱という意味で使われます。航空事故でもしばしば登場する言葉ですが、この場合は、飛行機が運航中の様々な状態を記録するフライト・レコーダー(FDR)と操縦室内の会話を録音したボイス・レコーダー(CVR)を格納するケースのことで、通常は目立つオレンジ色の耐荷性の高いケースに格納され、自動でビーコンを発して発見しやすい仕組みになっています。

このフランス映画は、CVRを分析する担当者が事故にまつわる陰謀に巻き込まれていくスリリングな展開の、一風かわった航空サスペンスです。監督・脚本はヤン・ゴズランという方。あくまでも音にこだわり、実際の事故映像などは登場しませんし、現代の人々が使う様々な情報ツールが登場します。

搭乗者全員死亡する最新鋭の旅客機墜落事故が発生しますが、フランス航空事故調査局の優秀な音声分析官マチュー(ビエール・ニネ)は、主任のポロック(オリヴィエ・ラブルダン)から担当を外されてしまいます。しかし、ブラック・ボックス回収後、ポロックは失踪。解析はマチューに委ねられることになります。

マチューは聞き取りにくい音声を解析して、テロリストらしき言葉を抽出することに成功しますが、事故の乗客の遺留品や事故直前に乗客が残した留守番電話の音声などから、CVRの記録が現実の事故の時間軸と一致していないことに気が付きます。

マチューの妻、ノエミ(ルー・ドゥ・ラージュ)は航空機製造認証機関の仕事をしていて、近く事故機の製造会社にヘッド・ハンティングで転職することになっていました。マチューは、製造会社が新型機の不具合を隠蔽するためにポロックを巻き込んでデータの改ざんを行ったと考え、ノエミのパソコンのデータを黙って持ち出してしまいます。しかし、問題を特定できるデータは見つからず、機密漏洩の責任をとらされたノエミは失職し、マチューも調査局を更迭されるのでした。

一人になってしまったマチューは、ラジコンのコントローラーが発生する電磁波が自分のワイヤレスイアホンと干渉して、CVRの記録と似た音が発生することに気がつき、事故がサイバー攻撃により操縦不能になったのではと考えます。ポロックの自宅に侵入し、友人のセキュリティ会社社長のグザヴィエ(セバスティアン・プドゥル)とポロックが共謀していた事実を確信したマチューは、ポロックの立ち回り先を調べついに隠してあった本物のCVRを発見します。

CVRを解析すると中身はまったく異なり、飛行機が遠隔操作により墜落させられたことが判明し、さらにその後にポロック自身の「これを見つけるのはマチューだけだ」という言葉から始まる告白も記録されていたのです。事故はグザヴィエの会社のシステムを売り込むためのものだったのです。しかし、グザヴィエの魔の手はマチューに迫っていました。

航空業界の闇に焦点を当てた、新感覚サスペンスという表現がびったりのような作品で、音声分析という技術が、雑音の中に埋もれた音を拾い出していく様は目が離せません。登場人物が情報を取得するのも、LINEだったりビデオ通話だったり、ドライブレコーダーの映像とか、ありとあらゆるものを利用するのも興味深いところです。

いつも細かい音に全神経を使う主人公が、雑踏の雑音で耳鳴りがしたりして苦しくなるというのも職業病としてありうる話で、イアホンで耳を塞ぐことで安息を得ると言うのも皮肉な話です。神経質ですが、いわゆる「オタク」系の人物として描かれますが、彼を通して知られざる世界を見せてくれるところは評価されるべきです。

言葉では説明しにくい、ハリウッドとは違う、いかにもフランス映画っぽい何でも説明しきらないところがミステリアスな感じです。飛行機はほぼ出てこないのに、立派な航空映画になっていて、フランス国内で大ヒットしたというのも納得です。

なお現時点でDVDなどは発売されていないようですが、Amazon Prime Videoで見ることができます。