これも野木亜紀子脚本によるテレビ・ドラマ。2011年に第22回フジテレビヤングシナリオ大賞で脚本家デヴューして以来の東京ドラマアウォード2016 脚本賞を受賞した作品。2016年4月期に全10話で放送されました。演出は「ビリギャル」、「罪の声」の土井裕泰や以後盟友となる塚原あや子らが担当しています。
原作は松田奈緒子のマンガで、マンガ週刊誌編集部を舞台に出版業界の実態をコミカルに描いたもの。黒木華はテレビ・ドラマ初主演です。
そもそもこのタイトルは何? というところから始まりますが「じゅうばん」って本を増刷することだと思うんですが、「でき」っと続くと意味がよくわからない。ドラマを見ればすぐわかるんですが、まず、「じゅうばん」ではなくて「じゅうはん」。そして「でき」ではなくて「しゅったい」と読むんだそうです。本が売れて増刷できるという意味で、出版社の最大に嬉しいことで、これを目標に皆が頑張って仕事をするわけです。
けがで柔道を引退した黒澤心(黒木華)は、マンガで何度も勇気づけられたことから大手出版社、興都館に就職し、業界2位のコミック誌、週刊バイブス編集部に配属されます。編集長はタイガース狂の和田(松重豊)、心の指導にあたる冷静な副編集長の五百旗頭(オダギリジョー)、編集部員には、漫画家は使い捨てという安井昇(安田顕)、一途に漫画家を応援する菊地文則(永岡佑)、威勢が良い壬生平太(荒川良々)が揃っています。営業部部長は岡英二(生瀬勝久)、そして心に感化され営業の仕事に開眼する小泉純(坂口健太郎)などがいて、超ポジティブな心の周囲には様々な出来事が絶えません。
マンガ界の重鎮、三蔵山(小日向文世)のスランプの原因を発見し立ち直らせたり、辛い過去をひきづる新人マンガ家の中田(永山絢斗)がデヴューできるように走り回ったり、今は自暴自棄な生活を送るかつての人気マンガ家の娘にマンガの素晴らしさを伝えたりと、とにかく心は忙しい。
このドラマの面白さは、主人公は心で、実に気持の良い周りを元気にするキャラクターが痛快というところ。コメディなんですが、やはり無理に笑わせようとするのではなく、心の言葉や行動が、無理なく可笑しさを作り出すところが素晴らしい。そして、それらにほとんど無駄な時間を費やしていない。必要最低限、ドラマを前に進めるための情報をしっかり描き出しているのです。
そして、もう一つのポイントは、登場する主だった人々のそれぞれにしっかりエピソードを割り振って、物語の中で無駄なキャラクターがいないというのもすごいことです。興都館の社長(高田純次)が何故質素な生活にこだわっているのか、安井が何故マンガ家に厳しい態度を取るのか、小泉がなんでやる気がない「ユーレイ」社員になったのか、三蔵山の万年スタッフの沼田(ムロツヨシ)が何故独り立ちできないのかなど、それぞれが端的に深く描かれます。
連続テレビドラマの場合は、いくら演出が素晴らしくても、やはり脚本家の技量がかなり大きく関与すると思います。最初からゴールをしっかりと考えていないと、途中で無駄な部分ばかりが目立ってしまいます。野木亜紀子の脚本が注目されるのは、おそらく全体の構成力が際立っていて、ストーリーが破綻せずにキャラクターを丁寧に描いているところにあるように感じました。