2024年7月23日火曜日

フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話 (2018)

脚本家、野木亜紀子がNHKでの初仕事になったスペシャル・ドラマ。ネット社会で真偽も確認されないような、まことしやかな話が毎日のように拡散する時代をテーマにした、他人事で片付けられないようなストーリー。

大手の新聞社からネット・メディア「イーストポスト」に出向中の東雲樹(北川景子)は、ネットの「鶴亀食品の人気インスタント麺に青虫が混入していた」という猿滑(光石研)のツイートに注目します。

このツイートは瞬く間に拡散し、鶴亀食品は一気に業績が悪化。似たような異物混入を報告するブログがいくつも登場し、東雲はそもそもがフェイク・ニュースだという記事をかきます。

今度は東雲が多くの誹謗中傷を受けることになり、いい加減な噂がネットの中で広がり続けます。東雲は新聞記者時代に、経産省官僚の最上(杉本哲太)の不正を取材し、セクハラをされた際に得意のテコンドーで最上に怪我をさせた過去がありました。調べていくと、収益目的で猿滑のツイートに便乗するブログを書いた者やインチキのニュースサイトに誘導する者などがみつかります。

新聞社の同僚だった西(永山絢斗)からの情報もあり、これらの情報操作を画策しているのは、県知事選に立候補している最上の疑いが浮上します。東雲はさらに深く真実を探し求めて、取材を続けるのでした。

ネット社会の怖さを描いたものとしては、2012年の「白ゆき姫殺人事件」(原作は湊かなえの2011年の小説)が先駆的作品として思い出されます。野木作品では、憶測が事実のように拡散していく怖さだけでなく、どうやってフェイクが作られていくか、そしてどうやって対処すれば良いのかという点を深く掘り下げようとしています。

ただ、その結論は一度ネットに上がった話題は永遠にネットの中を漂い続けるということ、そして人々が自らの正義だとバラバラに主張することが、まるで善も悪も無い、まるで「戦争」のようなものという悲しい現実です。人々がそこまでおかしなことにならないと信じたいところはありますが、多少なりとも「かもしれない」と思わせるところが脚本の妙味です。

ネットの中で検索だけでニュースを作り、いかに閲覧者数を稼ぐかだけが評価の対象となっているネット・メディアの実態と、北川景子のいかにも仕事のできる美人という外見も合わさって、実際に取材して真実を探りたい東雲が一人浮いてしまっている状況が過不足なく描かれています。

自分のちょっとした「つぶやき」から、社会的地位、家庭すら失う猿滑、あるいはネットで様々に誹謗される東雲の人間性などは基本的に救済されることがありません。しかし、少しだけ東雲に同調していくイーストポストの仲間を通じて、一縷の望みを託せる「メディアの良心」がわずかに垣間見えるのは見ていて助かります。

テーマがテーマだけに、野木作品の持ち味の一つである出過ぎないユーモアは封印されていますが、自身のオリジナル作品として勝負していける脚本家であることを再認識できる作品です。