2024年7月17日水曜日

パレード (2024)

最近は、映画もネット配信という方法が多くなり、けっこう早くに家で最新映画を楽しむことができます。特にNetflix、HuLu、Amazon Primeなどは比較的良質の作品を配信することが多く、既存の映画会社には無い新しい映画の形を提供しているのは注目すべきところです。

この映画も、そのようなネット配信の最新作の一つ。監督は37歳という若さにもかかわらず、すでに「新聞記者(2019)」で注目される藤井道人。脚本は「百円の恋(2014)」の足立紳です。

津波に呑み込まれ海岸に打ち上げられた美奈子(長澤まさみ)は、離れ離れになった息子を探して瓦礫の山となった街の歩いて救護所にたどりつきますが、誰も自分に関心を持たず、話しかけても返事すらしません。再び街に出ると、一台の車の男性が通りすがりに「大丈夫ですか」と声をかけてくれました。

アキラ(坂口健太郎)と名乗る男性は、街から離れた廃遊園地に美奈子を連れていきますが、そこにはやたらと口数が多いマイケル(リリー・フランキー)、皆の食事の面倒などを見るスナックのママ(寺島しのぶ)、ヤクザのせがれの勝利(横浜流星)、新聞ばかり読んでいる無口な田中(田中哲司)がいました。

かれらの話から、美奈子はすでに死んでいること、現世に強い未練を残した者たちが「あっちの世界」との間でとどまる場所であることが伝えられます。最初は受け入れられない美奈子でしたが、しだいに状況を理解し、息子の安否を調べるようになりました。

ママは自分のこどもたちが無事に大人になるのかを見届けたい、アキラは無骨な父親が自分のことを小説に書くようになったのでその完成を待ちたい、マイケルは別れた恋人にちゃんと謝りたいなどの未練があったのです。そういう思いを持った死者は他の場所にも大勢いて、月に一度全員が街の通りを行進するのが恒例で、そこで会いたかった人を探すのでした。

勝利は組の抗争で死んで、残した恋人がどうなったかが気がかりでした。自分の七回忌の法要を遠くから見つめていた女性を見つけると、彼女が今でも自分の事を忘れずいること、でもその上で新しい幸せを掴もうとしていることがわかり安心します。勝利は田中に「行きましょう」と云います。田中はこの世界の「監視員」で、思いの整理がついた人々を「あっちの世界」に導く係だったのです。

新たにセーラー服の高校生ナナ(森七菜)が仲間に加わります。彼女はいじめを苦にして自殺したのでした。マイケルはみんなに協力してもらい、自分の過去をストーリーにした映画を撮り始めます。そして、美奈子は息子が無事に施設で生活し始めたことを知らされるのでした。

死後の世界を舞台にしたストーリーはたくさんありますが、この世に未練があり成仏できずに「彷徨える幽霊」となった人々を描くというのは新鮮な着眼点かもしれません。生き残っている者にも、死者に対する未練はあるはずで、そういう意味では現世と映画の世界は合わせ鏡のような存在なのかもしれません。

ただし、こっちから向こうには行けるかもしれませんが、向こうからこっちには戻ってこれないというところが決定的な違いです。自分の死を納得できる形にするのは、とても大変なことなんでしょう。特に事故などで突然の死を迎えた方には、並大抵のことではない。この映画では、死んで終わりではなく、死んでから始まるストーリーがあることを教えてくれます。

もちろん、あくまでも生きている人の想像にすぎませんが、誰もそんな世界を生きているうちに知ることはできないのですから、ファンタジーと言ってしまえば確かにその通りです。でも、一欠片のリアルを感じることがあれば、この映画は成功といえるのかもしれません。

注) 2月に公開されたばかりなので、紹介しているBlurayはおそらく中国製で正規品ではありません