2024年7月14日日曜日

そらのレストラン (2019)

大泉洋主演の伊藤亜由美企画・製作の北海道シリーズ第3弾。今作の舞台は、札幌と函館の中間、日本海に面するせたな町で、「海が見える牧場」です。前2作と異なり監督は深川栄洋、脚本は土城温美が担当しています。

設楽亘理(大泉洋)とこと絵(本上まなみ)の夫婦、そして娘の潮莉(庄野凛)の三人は、海が見える牧場を営み、採れた牛乳でチーズを作っていました。

幼馴染でもある近所の農家の富永芳樹(高橋努)、石村甲介(マキタスポーツ)と妻の美智(安藤玉恵)、イカ釣り漁師の野添隆史(石崎ひゅーい)と言った友人たちと毎日を過ごしていました。そこに脱サラで牧羊を始めたばかりの神戸陽太郎(岡田将生)が加わり、より賑やかさが増してきました。

彼らは収穫物を朝市に持っていくと、札幌の有名シェフである朝田一行(眞島秀和)がその美味しさに感動して、皆にそれらを使った創作料理をふるまいました。それぞれが、自分の作ったものには自信がありましたが、さらに美味しくなったことに驚きます。そして、この美味しさをもっと多くの人に知ってもらおうと、一日だけの「レストラン」を開こうということになります。

亘理は父親が亡くなり牧場を継いだ時に、近くのチーズ工房の大谷雄二(小日向文世)にこの牛乳じゃないとチーズが作れないと言われ、出来上がったチーズの美味しさに感動してチーズ作りの教えを請うたのです。以来、大谷を師匠と仰ぎ、度々味見してもらいますが、なかなか理想の味にたどり着けない。大谷の妻、佐弥子(風吹ジュン)はこと絵や美智らとの交流の中で、やさしい祖母のような役割をしていて、まるで仲間全員が一つの家族のようでした。

ある日、亘理は出来上がったチーズを大谷に吟味してもらうため持っていくと、彼は口にする前に「なんでチーズを作っているんだ。お前は・・・」と言いかけて倒れます。そのまま帰らぬ人になってしまい、師を失った亘理は目標を失ったことで牧場もやめると言い出すのです。

仲間たちがそれぞれのやり方で励ます中、佐弥子から贈られた鍵で工房に入った亘理は、たった一つ残っていた初めて牛乳を届けた日に作られたチーズを見つけます。それを食べてみると涙が流れ、亘理はやっと「大谷さんのチーズ」ではなく「自分のチーズ」を作らないといけないことに気がつくのでした。

ファンタジー色が強く、心が現れるようなやさしさが描かれた前2作に比べると、ストーリー性が強調され、起承転結がはっきりした内容になりました。前のふわっとした雰囲気が好きな人にはちょっと現実感が強すぎるかもしれませんが、物語としての面白さは一番かもしれません。

冒頭、吹雪の中、「海の見える牧場」を見たくてやってきたこと絵が初めて亘理と出会うシーンは、いろいろ賛否両論がありそうです。いきなり10年後に三人家族になっているのですから、話が突飛すぎる。ただ、この地で生活する厳しさ、その中で作られる牛乳の良さ、そして亘理とこと絵の人間性みたいなものが端的に伝わるシーンであり、夏の牧場のさわやかな雰囲気をより強調する役割があるように思います。