何故かというと、まだ身近にコンピュータがなかったから。何しろNECのパソコンPC-8000で、一般人でもコンピュータなるものをいじるようになったのは、この映画の数年後からです。作ったのがミッキーのディズニー、監督はスティーブン・リズバーカーという人で、映画界的には「トロン」関連の仕事だけしている。
当時最も話題になったのは、世界初のCGを映画に持ち込んだということ。とは言っても、96分間の映画のうち降るCGは15分程度で、後は基本的にアニメーションです。アニメーションでも、CGよりも当然手間はかかったでしょうけど、出来栄えは今のCGとほとんど変わりません。
そういうトピックを度外視しても、バーチャル・リアリティの先駆的な作品ですし、コンピュータに支配される一種のディストピアを描いている点では、かなり時代を先取りした先見の明がある内容の映画といえそうです。
エンコム社の筆頭重役デリンジャー(デビッド・ワーナー)は、自身が作ったオペレーティング・システムであるMCP(マスター・コントロール・プログラム)によって、様々な会社のデータを不正ハッキングして取得し、どんどん地位を強固にしていました。
フリン(ジェフ・ブリッジス)は、エンコムの優秀なプログラマーで、爆発的ヒットになりエンコムが大きくなるきっかけとなったゲームをプログラムしたのですがデリンジャーに盗まれ、今や場末のゲーム・センターを経営しつつ、何とかデリンジャーの不正の証拠をつかもうとエンコムにハッキングを繰り返しています。
MCPの世界では、不要になったプログラムやハッキングしてきて捕獲したプログラムを消去するだけでなく、闘牛のように戦わせて見せしめにするゲームが行われているのです。情報量が肥大化して増長したMCPはしだいに、デリンジャーすら言うとおりにしないと数々の不正を暴くと脅迫するようになっていました。
現役のプログラマーのアラン(ブルース・ボックスライトナー)は、MCPを含む多くのコンピュータを監視して不正を摘発するトロンと呼ぶプログラムを作っていました。アランと研究員であり、ガールフレンドのローラ(シンディ・モーガン)は、フリンと共にMCPの不正を発見することにします。
外部からでは無理なので、フリンは二人の協力によって社内からMCPにアクセスします。あわてたMCPは、研究中の物質を分子レベルでデジタル化するレーザーを起動し、フリンをMCPの内部データとして取り込んでしまうのでした。
戦闘ゲームでアランの作ったトロンと出会ったフリンは協力して、MCPに戦いを挑みます。トロンは、外界のアランと交信し、MCP破壊プログラムを受け取ります。MCPの中枢に何とかたどりついて、ついにMCPを破壊することに成功します。フリンのデジタル・データはアナログに復元され、デリンジャーの不正の証拠も取得したフリンは新たなエンコムの経営者になりました。
かなり、簡素化した線と面の世界は、アニメーションでも、CGでもあまり差がわかりません。もっともそれが本来のデジタルの世界ですから、このシンプルさはいかにもコンピューターの中という感じがします。すでにバグという概念も含まれていることには驚きます。
主演のジェフ・ブリッジスは、クリント・イーストウッドの「サンダーボルト(1974)」で、イーストウッドのやんちゃな弟分として日本で知られるようになった人。この映画の前に話題作の「天国の門(1980)」に出演しましたが、あと一歩活躍しきれない感じ。ここでも、ブリッジスが演じているのはタイトルのトロンではありません。
まぁ、40年前ということを考えれば、それなりによくできた映画で、新たなSF映画の土台の先駆者として一定の評価はされるべき作品だと思いました。