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2021年8月29日日曜日

V・フォー・ヴェンデッタ (2006)

突然ですが、英語で「ナイス・ガイ (nice guy)」とか言いますよね。ガイというのは、「奴」という意味で使われますが、これは16世紀のイギリスに実在したガイ・フォークスという人物が由来で、国王暗殺のための火薬陰謀事件と犯人の一人とされています。逮捕された11月5日は、今でも記念日としてガイ・フォークス・ナイトと呼ばれています。

この記念日の式典で18世紀から、ガイ・フォークスの顔を模した仮面が使われるようになり、現在でも社会的な抗議運動のシンボルとして知られています。特に、ハッカー集団アノニマスのメンバーが、顔を隠すためにしばしば使用しているのが有名です。

話は変わりますが、ナタリー・ポートマンと言えば、リュック・ベンソンの「レオン」でデヴューし、「ブラック・スワン(2010)」でアカデミー主演女優賞に輝きました。でも、一般に知られるようになったのは「スター・ウォーズ」のアミダラ役からで、意外とSF映画との相性は悪くない。というわけで、「スター・ウォーズ」の仕事が一段落して出演したのがこの映画。

もともとはDCコミックの成人向け作品が原作。タイトルは「Vは復讐のV」という意味。製作・脚本は「マトリックス」シリーズのウォシャウスキー兄弟で、監督は「マトリックス」で助監督だったジェームズ・マクティーグ。近未来のイギリス・・・ここも独裁的な政治により市民が抑圧されていて、自由と解放に立ち上がる人々のディストピア・ストーリーです。

第三次世界大戦の後アメリカを植民地としたイギリスは、国中に蔓延したウイルス感染症を撲滅したサトラーが独裁者として、自由を大きく制限した社会となっていました。夜間外出禁止令の中、国営放送局に勤めるイヴィ(ナタリー・ポートマン)は、デートのために外出したところを秘密警察に見つかりますが、ガイ・フォークスのマスクを付けた謎の男Vに助けられ、彼が裁判所を爆破するのを間近に目撃します。それは、まさに11月5日のことでした。

監視カメラの映像からフィンチ警視は、両親が収容所で亡くなっているイヴィの身元を割り出し放送局に向かいます。しかし、Vが爆薬を持ち込んで放送局を占拠し、犯行声明と共に、政府に対して異を唱えたいものは、来年の11月5日に国会議事堂に集まるように話す映像を流すのです。

イヴィは成り行きでVと行動を共にすることになってしまいます。Vは、政府にとっても重要な役目を担っているプロパガンダ番組に出演するプロセロ、英国国教会のリリアン司教、検視官のサリッジ医師らを次々に殺害していきます。

フィンチ警視は、サリッジの日記から、彼らが今では記録がほとんど削除された強制収容所の関係者であったこと、反体制運動をした人々は、収容所でウイルスについての人体実験によりことごとく死亡しVは唯一の生存者であること、かつてのウイルス蔓延と収束は、権力を掌握するためのサトラーの自作自演であったことを知ります。

過激化するVの元を去ったイヴィは、上司のディートリッヒに匿われますが、ディートリッヒがVに触発されて反サトラーの番組を作ったことで、公安のクリーディに粛清されました。その場から逃げたイヴィは逮捕され、「Vの居場所を言えば命は助ける」と言われ拷問されます。

イヴィは、独房の隙間に見つけた処刑された女性の自由を切望する手紙を拠り所に、耐え抜き最終的な質問にも「NO」と答えます。実はこの拷問を仕組んだのはVであり、イヴィを恐怖から解放することが目的でした。Vはクリーディを襲い、サトラーに信用されず捨てられるのが嫌ならサトラーの身柄を引き渡すよう脅迫します。

11月5日まで数週間に迫り、Vはガイ・フォークス・マスクを国中に送り付け、次第に混乱が始まりました。そして、マスクをつけていた少女を警察が射殺したことから暴動へ発展します。そして、前夜、再びVを訪ねたイヴィは、この後は君たち新しい世代に託すと国会議事堂への爆弾を搭載した地下鉄の発車を頼まれます。

サトラーを捕えたクリーディは、Vの目の前でサトラーを射殺し、Vも多数の銃弾を浴びますが反撃され倒されます。しかし、Vはイヴィのもとに戻ったところで力尽き、5日になった鐘と共に、イヴィは彼の遺体と爆弾を載せた地下鉄を発車させるのでした。

近未来というよりは、冷戦時代に本当に第三次世界大戦が起こっていた場合のパラレル・ワールドを描いたものという方が正しいかもしれません。ただし、最初に書いたガイ・フォークスの逸話を知らないと、映画の中では冒頭で知っている人はわかる程度に紹介されているだけなので、なんだかよくわからない状態になってしまうのは惜しい。

マトリックス組によるアクションも多少はありますが、どちらかというと全体主義的な強権政治に対する批判的なダーク・スリラーという風合いが強調されているようです。原作のコミックは、鉄の女、マーガレット・サッチャー時代に発表されています。

ナタリー・ポートマンは、拷問の前に丸刈りにされてしまうのを承知の上で出演を希望したらしい。それだけの覚悟を十分に伝えられる熱演だと思いますが、この後のウェス・アンダーソン監督の「ダージリン急行(2007)」で超短髪の理由がわかりました。

仮面の男Vは、最初から最後まで素顔は見せません。よくぞ、こんな役を引き受けた俳優がいるもんだと思いますが、演じたのは「マトリックス」のエージェント・スミス役のヒューゴ・ウィーヴィングとわっかって納得。実は最初、別の俳優で撮影が始まったのですが、ストレスで降板しちゃったらしい。それでも、一切表情が無い仮面なのに、演技になっているところは感心します。

最後でラスボスのはずのサトラーがいとも簡単に、しかもV以外の人物に殺されるのは、ちょっと肩透かし気味な感じですが、それなりにまとめきった内容で、まぁまぁ楽しめました。